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雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編_第六話 変化(その4)
 翌日から綾華の体調は急激に悪くなった。

 朝食を食べ終えた時だった。

「ごっそさん」

 食器をまとめて流しに置く。綾華もお茶を入れてからそれに続いた。
 しかし。

 ガチャンッ。ガチャパリン。

 食器の割れる音に槙人が振り向くと、呆然とした表情の綾華がしりもちをついていた。

「おい、大丈夫か?」
「あ、うん。ちょっと・・・」

 苦笑いをして綾華は立ち上がろうとする。が、すぐに。

「ふわっ!?」
「うわっ!」

 途中で力が抜けたように、綾華はカクンとその場にへたり込んだ。破片が危なく、慌てて槙人が抱き止める。

「バカ!何やってんだ」
「え・・・あの、力が・・・」

 入らなくて、と、綾華は自分の足を見下ろした。

「立てるか?」
「・・・足が、動かない」

「・・・ねえ、お兄ちゃん。あれ、何かなぁ?」
「ん?」

 綾華を部屋に連れ戻し、ベッドに寝かせてから、槙人は片付けをした。それを終えてから、様子を見に綾華の部屋に戻って来たのだ。そのとき、窓の外を見ていた綾華が口を開いた。

「どれだ?」
「あれ」

 外は今日も雪。歩いている人間も特にいない。綾華は白く積もった道を指さしていた。

「何もないぞ」
「あるじゃない。ほら、何か変なのが」

 綾華の指に目線を合わせてみるが、雪以外何も見えない。

「どれだよ」
「あれ!何か、歩いているでしょ?」
「はあ?」

 嘘を言っている訳ではないのだろうが、槙人には、「歩いている」物など見えなかった。

 それから丸二日間、綾華は意識不明で眠っていた。

「・・・医者呼んで訊いたんだけど何もわからなかった」

 お粥をすする綾華に、溜め息混じりに槙人はこの二日間の事を告げた。

「何も?」
「何も」

 ただ体が衰弱しているだけと、何度も聞かされた台詞を聞かされただけだった。


「何なんだろうね、私って」


 綾華は困ったような笑顔を作る。


「・・・そうだな。少なくともこのままでいて欲しいもんじゃないな」

 少し考えてから、槙人が答える。
 そう。このまま、綾華がただ弱っていくのは辛い。

「・・・ありがとね」

 くすっと綾華は笑った。
 だけど、何もできない。それがもどかしかった。ただ、手をこまねいているだけで。

「やっぱり、この眼かなぁ・・・」

 綾華は、そっと右目の目尻に手を添える。
 銀色の綾華の右眼。すべて推測しかできないというのなら、原因はそれしか考えられなかった。しかし、それが何なのか、何故体に影響を与えるのかわからない。
 結局、答えは見つからないのだ。
 大丈夫とも言えなくて、槙人は綾華の頭を撫でる事しかできなかった。


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