雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第五話(その1)
雪がつもる。肩に。頭に。払っても。雪は後から後から降りつもる。
そんな中。へたり込んで男の子の腰にしがみつく女の子がいた。
その目は涙で真っ赤で。
「・・・が?」
「そう・・・しの・・・だっ・・・ないぞ」
二人が何か話している。声は、よく聞こえない。
「・・・うんっ・・・かな・・・」
女の子は、男の子の言葉を聞いて笑った。泣いていたけれど、精一杯笑おうとしているのが分かった。
「約束だぞ」
男の子が自分の小指と女の子の小指を絡ませる。
「うん。ゆびきり・・・」
「約束するから・・・ったい・・・から・・・おまえ・・・なよ」
「うんっ」
雪で景色が白くなる。二人の姿は、雪に埋もれて、見えなくなってしまった。
「う・・・?」
「お兄ちゃん、起きてよー」
目を開けると綾香の顔が視界いっぱいに入った・
「ノックしろって言ってるだろ?」
暫く見つめ合っていたが、綾香の顔をどかしてから槙人は起き上がった。
「六回したけど?」
無表情のまま綾華は答えた。
とてもよく熟睡していたらしい。時計を見ると十時間眠っていた。
「あー・・・ワリぃ。で、何の用だ?」
今日も島は雪である。槙人はふとんにもぐり直した。
「何って・・・海に行くんじゃない」
「は!?今日も!?」
槙人は目を丸くして訊き返した。
「何言ってるのよ。昨日言ってたでしょ?二日連続って」
呆れ顔で綾華は言う。
そう言われてみれば、そんなことを言っていた気もする。だが、昨日は早く眠ってしまったために記憶が曖昧だった。夢も見ていたようではっきりしない
「ほら、早く早く」
病弱なはずの綾華の方が、槙人よりもずっと元気だった。
「いや・・・待ってくれ、綾華」
「何?」
「今日は、オレ、パスな」
昨日のようなハードさを今日も味わいたくはなかった。楽しいことは楽しいのだが、引っ張り回される方の身にもなってほしかった。
「ええー?お兄ちゃんが来なきゃ意味ないよー」
が、綾華はそれを聞き入れる気はないようだった。
「うーん・・・。分かった。昼から行く。それでいいか?」
少し考えてから槙人は承諾した。
綾華と一緒にいようと決めたのだ。それを昨日の今日で破る訳に行かない。寝起きで鈍っていた頭に活を入れる。
「うん、ま、いっか。でもちゃんと来てね」
「ああ」
とりあえず、綾香を外まで送り出すことにした。
「ごはんは置いてあるからあっためてね」
「あいよ。気いつけろよ」
「うん。行ってきますーす」
そのまま綾華は出て行った。
「痛っ!?」
しかし通りを数歩歩いたところで綾華は突然よろけた
「どうした?」
何かにつまずいたのだろうか。槙人は傍に寄った。
「今、何か当たった・・・」
「は?何に?」
後ろから見ていた限りでは、綾華の傍には何もなかった。周囲を見回しても、雪以外には何もない。人通りもなかった。
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