雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編_第四話(その4) 手早く綾華に洗い物を済まさせ、槙人はそこに掃除機をかけた。 その後は大したトラブルもなく、槙人と綾華は無事に家事を終わらせた。 「それじゃ行こっか。さっきメール来たし」 「おう」 海に泳ぎに行くというのに外は雪。上着の分だけ荷物が邪魔だった。 「ところで、どこかで待ち合わせしてるのか?」 橋の上で暑苦しい上着を脱いで、槙人は綾華に訊いた。 「橋、渡りきったとこ」 「何人来るんだ?」 「さあ・・・まっちーとその友達が何人呼ぶかによるんだけど・・・」 「決めてないのかよ」 「私はまっちー決めただけだから・・・」 綾華の言葉通り、町田達は橋のたもとで待っていた。 「おーい!」 「あ、綾華ー」 気付いた町田が手を振る。 「あ、どうも姫崎さん」 そして、槙人にお辞儀をした。 「よう、まっちー」 「うわーい、なんで知ってんですか、その呼び名!?」 「いや・・・綾華から聞いたんだが」 「うわー、やめて下さいよぉ!それ、綾華が勝手に言ってるだけですからぁ。定着なんかしてないですよ」 「あ、そうなのか?」 集まったのは、槙人と綾華を含めて九人。本当に、槙人以外は全員女の子だった。橋から春日浜までは、海沿いの道で徒歩十分といったところにある。浜自体が大して広くないため、結構混んで見える。槙人達はそれなりに空いた所にビーチパラソルを立てた。 「さァ行くぞー!」 「いやっほー!」 パラソルの回りにドサドサと荷物を放り、何人かが勢いよく海へと駆け出した。 服の下に水着を着ていたので、服まで脱ぎ捨てて行った。 「あーもー。片付けくらいしてよー」 愚痴をこぼしながら、町田がそれを拾う。 「元気良いな」 「男の人が目の前にいるというのに・・・」 町田は溜め息をついた。 「別に男目当てって訳でもないんだろ?」 「ええまあ、そうですけど・・・」 「それに俺だしな」 大して顔も良くない男に好かれようとは思わないだろう。 「いや、それは別問題ですよ」 「そうか?」 「一般論として。それに、姫崎さんて結構カッコいいと思いますよ」 ニッコリと町田は笑う。 「ん・・・そうか?」 「ええ。だって・・・」 「おっ兄ちゃん!」 その時、綾華が後ろから抱きついてきた。 「お・よ・ぎ・に・い・こー」 そのまま、槙人にチョークスリーパーをかける。顔は笑っていたが、目が笑っていない。 「ぐええ・・・!あ、綾華・・・!入ってる・・・マジ入ってるって・・・!」 意識が飛ぶ一歩手前で綾華は手を放した。槙人は激しく咳き込む。 「ね、早く」 「へいへい」 「ところでさ、これどう?」 綾華も、服を脱いで水着になっていた。槙人の選んだ水着である。 (へえ・・・) 「おー、いいじゃない。可愛いね、その水着」 「えへへ。ありがと」 綾華はその場でくるくると回ってみせた。 「どう?どう?お兄ちゃん」 綾華は、槙人の顔を覗き込んだ。 「え?ああ・・・俺が選んだんだから良いに決まってるだろ。似合ってるよ」 「わーい!」 だが、槙人は綾華の水着など見ていなかった。褒め言葉が出たのは、奇跡に近かった。 (結構、出るとこ出てるんだな・・・) 綾華はなかなかに良いプロポーションをしていた。回りの女の子よりも割合胸は大きく、スリーサイズのバランスも良かった。 肌も白く綺麗で、日差しを反射していた。 見ていて眩しい。 綾華も女の子だということを、改めて認識させられた。 「さ、行こ」 「おう」 しかし、あまりジロジロ見ていると何か言われるかも知れないので、程々にして槙人は立ち上がった。 海で泳ぐのも、七年ぶりだった。 [*前へ][次へ#] |