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雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第三話 雪の中に(その3)
「わー。いやーん。何にしよー。迷っちゃうなー」

(しまった)
 くるくる回って喜びを表現する綾華に対し、槙人は目を手で覆った。
 時間を短縮するつもりがさらに長引かせることとなってしまったのだ。槙人は慌てて綾華に声をかけた。

「ちょっと待て綾華!やっぱ俺が決める!」
「へ?」
「いや、プレゼントである以上、俺が一から決めてこそってな・・・」

 かなりぎこちない笑顔で、もっともらしいことを言う。

「んー・・・っん、いいよ。で、何にするの?」
「そ、そうだな・・・」

 言われて槙人は店内をぐるっと見回した。と、一つのコーナーで止まる。

「帽子・・・はどうだ?」
「帽子?」

 帽子のコーナーに行き、適当なものを選んで綾華の頭に被せる。

「ほれ」
「・・・えへへ」

 綾香は嬉しそうに笑う。しかし、すぐに取って元に戻した。

「でも、帽子はいいや」
「いいのか?」
「うん。マフラーにして、お兄ちゃん」
「マフラー」

 あまりに夏らしくないものをリクエストされ、思わず槙人は訊き返した。

「うん。その方が良いの。ほら、島に住んでると、夏でも冬物を着なきゃいけないでしょ?
だから、そういうのを買っておけば夏でも冬でも、ね?」
「ああ・・・なるほどな」
「・・・お兄ちゃんからのプレゼントだもん。たくさん、使ってたいよ・・・」

 二人は帽子コーナーを離れた。しかし、真夏にマフラーが売っているだろうか。槙人は不安になったが、目的の物はあっさり見つかってしまった。島の人間盛り黄しているので、少数だが置いてあるらしい。
 しかし、季節が季節なので、値段は格安だった。

「買い物上手だな、お前」
「あはは」

 綾香の希望に沿って、チェック柄で長いマフラーを選んだ。
 会計をすませて外に出る。

「ほらよ」
「うん」

 紙袋に入れてもらったマフラーを綾華に渡す。残りの荷物は槙人が持った。

「じゃあ帰るか」
「うん。ありがとね、お兄ちゃん」
「これで赤点取ったら恨むぞ」
「うわおっ。いきなりヒドいセリフ」
「お前が元凶だろうが」

 呆れ顔で綾華を見る。だが、綾香はまだ嬉し顔のままだった。

「そんなにヤバいの?」

 途中で綾華が訊いてきた。

「ボーダーラインギリギリなんだよな。勉強すりゃなんとかなるんだけど。肝心のやる気が出るかどうかで決まるから・・・」
「・・・要は集中力なのね」
「まあな。集中力が続けばな・・・」

 槙人は溜め息をついた。頑張らなくてはならないと分かっていても、今ひとつ力が出てこないのだ。

「・・・ねえお兄ちゃん。それなら、私と勉強する?」
「お前と?」

 綾華の突然の提案に槙人はふり向いた。

「うん。お兄ちゃんの勉強は集中力次第なんでしょ?なら、そういう雰囲気を作ればいいんじゃない?勉強してるんだっていう・・・」

 槙人は顎に手を当てた。

「一理あるな。けど、お前にやる気はあるのか?」
「当たり前だよ。心外だなあ」

 少し怒った顔で綾香は返す。

「うーん。まあ、やるだけやってみるか、じゃあ、帰って昼メシ食ったらな」
「うん」

 橋の上でそう取り決める。
 空は夏の快晴。しかし、屶瀬島の上空だけには、まだ厚い雲が立ちこめていた。

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あきゅろす。
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