雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第二話 雪景色(その6) 「綾華−。入るぞー」 ノックをしてから、槙人はドアを開けた。 「あ、お兄ちゃん・・・」 綾華は、半分布団に入ったまま、上半身だけ起こしていた。 「起きてたか?」 「今、起きた」 「そうか」 槙人は机の前にあった椅子に腰掛けた。 「いなくなったと思ったら倒れてるんだからな。ビックリしたぞ」 「うん、ごめん・・・」 「町田さんが保護していなかったらどうなってたことか・・・」 「うん・・・。まっちーに会って話してたらお兄ちゃんとはぐれちゃったから、探してたんだけど・・・」 まっちー、ていうのか、と槙人は呟いた。それにしても、結局はすれ違いだったらしい。 「結局、なんで倒れたんだ?」 「うーん・・・多分、人酔いじゃないかな」 「人酔い、ねえ・・・」 確かに、結構な往来だったとは思う。綾華の体なら、仕方のない事なのかもしれなかった。 「あほう」 しかし、槙人はあえて自分の感想をはっきり言った。 「な・・・!何よそれ−!」 全く予想していなかった答えらしく、綾華は怒った声を出すしかできなかった。 「体が弱いんだから、人酔いで倒れる事くらい予想しとけ。そんなんで、よく行く気になったな」 「だってー・・・」 「だってじゃない。俺はお前じゃないんだ。お前の体調が良いかどうかなんて分からないんだよ」 ぺしっと綾華の額を叩く。 「うー・・・」 「暫く寝てろ。昼メシは俺が作ってやるから」 「ええ?お兄ちゃんのごはん、おいしくないよ」 「てめえ・・・」 「私ならもう大丈夫だよ。私が作る」 「駄目だ」 強く言い返すと、槙人は起きあがろうとする綾華をベッドに押し戻した。 「うわぅっ。何すんの」 「自分の体調管理もできないやつの言葉を信用できると思うのか。寝ろ」 「むー・・・」 槙人に威圧され、しぶしぶ綾香はベッドに戻り、横になった。槙人はその綾香の額に手を乗せる。 「んー・・・熱はないな。でも一応薬飲んどくか。綾華、お前の常備薬どこだ?」 綾華は専用の薬を持っている。朝夕食後に飲んでいるのを毎日見ている。 「大袈裟だよぉ」 ふとんのなかで苦笑いする綾華。 「大事をとっているんだ」 「大事、とりすぎ・・・」 「仕方ないだろ。俺は病気持ちの誰かを看病した事なんてないんだ。勝手が分からないんだから、大袈裟くらいでちょうどいいんだよ」 「うーん・・・。でも、あれは今は関係ないよ。一階にビタミン剤あるから、適当なの持って来て」 「あいよ」 一階に降りた槙人は、コップに水、そしてビタミン剤を用意してから綾華の部屋に戻った。それを綾華に飲ませる。 「とにかく、俺が気づけるようになるまでは、自己管理はちゃんとしてくれよ」 「うん。あ、ねえお兄ちゃん。私の服脱がせたの、お兄ちゃん?」 綾華は自分のシャツをツンツンと引っ張って尋ねる。 「町田さんだ。ちゃんと礼言っとけよ」 「分かった。でも、お兄ちゃんなら、脱がされても良かったかな・・・なんて」 じっと上目遣いで綾華が見つめる。槙人はもう一度綾華の額を叩いた。 「バカタレ」 「でもちょっとドキドキ?」 「するかっ」 ツッコミ代わりに、再度綾華の額を叩く。 「うー・・・。でもありがとうね、お兄ちゃん」 「ん?」 綾華が笑顔を作る。 「ちゃんと心配してくれてるんだ」 「当たり前だ。妹だからな」 槙人は椅子から立ち上がった。 「しっかり寝てろよ」 「はーい」 [*前へ][次へ#] |