[通常モード] [URL送信]
雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第一話 新しい始まり(その5)
「どうよー!?」
「どうって・・・何か?」
「見事でしょ−?」
「いや・・・だから何が?」

 ノーリアクションの槙人にエレアはぷーっと頬を膨らませる。

「短歌よ、短歌−!見事な三十一文字だったでしょー!?」
「・・・ああ!」

 怪訝な顔をしていた槙人だったが、言われて三秒考えてからようやく気づいた。
 自己紹介のことを言っていたらしい。言われてみれば、確かに短歌形式だ。

「・・・普通に自己紹介できないのか?」

 先ほどの市川という男といい、このエレアといい、なんだか特殊な奴ばかりだ。
 このクラスはこんな人間しかいないのだろうか。
 中途半端に壮大なプロフィールは置いといて、槙人はげんなりしてしまった。

「これが私の流儀だから−!」

 親指を立て、エレアは自分を指さす。どうやらこの自己紹介は、エレアの持ちネタのようだ。しかし、恐らく日本以外では通用しないだろう。

「わ、ちなみに漢字で書くとこうよー」

 と、エレアは持っていたノートを開く。
 そこには、「恵麗亜 津嗚呼苦覇雨闘」と大々的に書かれていた。
 しかも墨で。

「ドウよー!」

 とエレアが訊いてきたからだ。
 槙人はもう答える気力もなかった。
 この学校の人間は、精神攻撃が得意なのだろうか。

「・・・ツアーの辺りに無理があるんじゃないか?」

 溜め息混じりにそう言ってみる。

「ううっ。でも仕方ないよー。つぁーなんて発音、漢字にはないんだからー」
「ま、そうだな」

 その時タイミングよくチャイムが鳴った。担当教師がはいってきたので、エレアや他の生徒達も去って行った。
(・・・ん?)
 何となく教室を見回していた槙人は一人の女生徒のところで視線を止めた。
 見事までに綺麗な、長い黒髪の少女。
(何だ?あの目?)
 女生徒の目は左右でその色が違っているのだ。右目は普通の黒だったが、左目は金色。
(あんな目の色があるのか?)
 遠いのでよく分からないが、瞳の方も極端に小さい気がする。
 あんな目で、ものが見えているのだろうか。
 視線を感じたのか、少女が槙人の方を見る。慌てて槙人は目を逸らした。
 本当に、このクラスには特殊な人間が多いのかもしれない。その目の意味を知らない槙人は、そんなことを考えていた。
 しかし、すぐにその事も忘れてしまった。
 自分には追いつけない授業という更なる精神攻撃を受けてしまったからだった。


 昼休み。
 授業とエレア達の相手をしていたせいで消耗しきった腹を抱え、槙人は食堂にやって来た。綾華が弁当を作ると言ったのだが、槙人は遠慮しておいた。
 両親が常に家にいないため、綾華の料理の腕はかなり発達している。
 だが、誰にもばれないとはいえ、なんだか気恥ずかしいので、学食のメニューを見たいという理由にして断ったのだ。
 しつこく食い下がってくると思ったが、意外にも綾華はあっさり承諾してくれた。生徒数が多いため、かなり混雑する中、槙人は「味噌バーグ定食」なるものを注文してみた。
この学食には「カレースパゲッティ」や「サラダ丼」など、珍妙な品が多い。加えて「カツカレーU」とか、「和風中華丼」とか、ツッコミを入れたくなるものもあった。また、梅干しが単体で売っていたりする。
 それらよく分からないメニューを見て、最初は怯んだ槙人だったが、後からムラムラとチャレンジャー精神が湧き出てきて、結局選ぶことにしたのだ。
 頼んだ定食は、見た目は美味しそうだった。それなりに需要はあるのかもしれない。

「あ、お兄ちゃ−ん!」

 空いている席を探して周りを見回していると、不意に槙人はそんな声を聞いた。
 振り向くと綾華が手を上げて合図しているのが見えた。

「お前、何しているんだこんな所で」

 槙人は食事を持ったまま綾華の席に近づいた。

「ご飯食べてるの」
「見りゃ分かる。弁当持っているお前が何でわざわざ学食で食ってるのかって訊いてるんだ。」

 綾華の向かいに座りながら槙人は尋ねる。まだ、食べ始めたばかりなのだろう。綾華の弁当箱の中身は少ししか減っていなかった。

「お兄ちゃんが学食で食べるって言ってたから」
「うっ!?」

 その言葉を聞いて槙人は即座に理解した。弁当を作るかどうかで、何故綾華がすぐ引き下がったのか。
 弁当を作れば槙人が教室で食べることは見抜いていたのだろう。だが、作らなければ。

「けど、わざわざお前が来る必要はないだろ」
「いいじゃん別に。一緒に食べたかったんだもん」

 そのために、槙人を罠にはめたのだ。
 とんでもない策略家だ。こんな奴の将来を考えると怖くなってしまう。
 座ってしまった以上席を立つ訳にも行かず、槙人は素直に食べ始めた。妹と一緒に食べるという、一層恥ずかしいシチュエーションだ。市川やエレアがいないのがせめてもの救いだった。

「綾華・・・」
「んー?」
「・・・明日から弁当を作ってくれ」」
「はーい!」

 その人の槙人の昼食は、うまいのか不味いのか、よく分からなかった。


[*前へ][次へ#]

無料HPエムペ!