マオユウ 16 肌に触れる指先がひやりと吸い付くように冷たくて心地よかった。 纏まらない思考を捏ね回しながら、彼女は考えていた。自分は勇者だ、と。国を裏切り魔王に下り、仲間を裏切ったのだ。と 実際下ってもないし、魔族に取り入ってもないし仲間入りなんて出来るはずもない。その上恨みは山ほど買っている。 人の国にもこちらにも寄る辺などないのだ。 彼が身を引こうとしたその時、勇者は声をかけた。 「(、殺して)」 掠れたそれはかろうじて空気を震わせて、人よりも耳ざとい魔窟の主がこちらを覗きこんだのを感じた。 「(、胸…か ら、卵をえぐる前に)」 うつらうつらと、意識を飛ばしそうになりながら慈悲を乞う。 麻薬や麻酔の類いも植え付けられたこちらの知識の中には見当たらず 生きて胸を開かれるのは、ひどく恐ろしかった。 「…無理だ。」 短く最後の望みが一蹴される。 「卵が馴染みすぎていて、取り出せば壊れる。それならば胎内でもう少し育てて貰わわねば、どちらも駄目になる」 しかし、その後に続いた言葉に勇者はあと少しは生きてていられるのか?とぼんやり思った。 気だるく重い瞼を辛うじて抉じ開けながら、霞む目で男に視線を向ける。 「どれくらい生きてていいんだ…?」 その言葉を聞いて、男は考え込むように少し押し黙った。 早く答えてくれないと、今にも気絶しそうな勇者は目を閉じ耳を澄ます。 「…子供には母親が必要だ。」 一瞬、勇者は聞き間違えかと考え再び目を開いた。 なぜ、そんな話に跳んだのか訳がわからない。 「……?」 まじまじと見上げれば、少し首をかしげながら男がこちらを見下ろして 「選択肢は、余り無いんだがな」 と口を開いた。 一つは、卵が馴染みすぎている事、もう一つは心臓を圧迫していること、そして最後に 「それが、亡き妻ではなくお前が親だと主張している」 との事だった。 だから魔力でもって、卵を胸ではなく胎内の別の場所に移し、卵がしっかりするまで抱えて貰うくらいしか手が出せないらしく [*前へ][次へ#] [戻る] |