砂時計
03
「ほんと皆何考えてんのか」
学校に行きたいと何も口にしたことないのに、何故いきなり学校に行かないか? と聞かれたのか。
確かに千歳は学校に行きたかったが、体の調子と鑑みて明らかに学校生活は無謀なことだと理解していた。
己の体は、己が一番知っているから。
無謀なことを無茶するほど千歳は馬鹿でない。聡いからこそ、呆れた願いは絶対に口にすることはなかった。
元々最低限の望みしか言わないから、わざわざ言葉にする必要性もなかったのだ。
それを、家族は実行した。
しかも、既に編入手続済み。
突っ込みどころ満載、共犯者の桑原にも目茶苦茶文句を言った。
あそこまで饒舌になったのは久方振りだ。
今思い出しても呆れるばかり。
『はぁっ、何言ってんの!?』
『行きたくないのか?』
『行きたいよッ!――――って、あ』
千歳をしまった、と口を手で押さえた。逆に千歳を除く全員爆笑。憐を連れ戻しに来ていたあの安達も。
あの時皆が皆、『阿呆だー!』とか、『墓穴掘ってる!』とか、『馬鹿だ!』『抜けてる!』とか口々に散々言われれば、流石の当人もキレないわけがない。
『もういいっ! 勝手に笑ってろよ!』
墓穴を掘ったのは千歳だが、別に学校に行きたくないというわけではないから余計に辛かったのだ。
行きたい、行けない。
そんな相反する想いが、葛藤を生み出させる。
学校に行くということは、身体面から考えても学校側に周りにも多大な迷惑と負担を掛けるのだ。
点滴が終わっていたから腕の動きを戒める注射針とゴム管はなくなっていた。
キレた拍子にそのままベッドから下りようとしたが、千矢と千里に引き止められた。
『何するんだよ! バカ!』
『馬鹿はお前だ! 発作起こすだろが!』
『阿呆か! ふざけた真似やるな!』
『じゃあ、ふざけた真似やってる理由の原因は誰だよッ! 急に言われて、はいそうですか、って納得出来ると思う!? ああ、行きたいよ! でも勝手に決められたらこっちだって驚くだろ!』
憤然とした態度のまま言い切り、ハアハアと苦しげに息を吐き出す。制止の声を振り切って部屋から飛び出そうとする千歳を二人は無理矢理ベッドに戻して、力付くで体を横にさせた。
『落ち着け、千歳。桑原先生からも既に許可を取ってある。それに紫堂学園は全寮制だから学校医が常駐しているし、医療体制だって完備している。学園内には神水葱と提携している病院だってあるしな。安心して行けるぞ?』
皆の余計な一言のお蔭で気が立っている千歳を、千矢と千里の二人で宥め賺した。突き放すような言葉を吐いたが涙を浮かべている姿を見ると、暫くは機嫌が戻ってくれないだろうと皆嘆息を漏らしたのだった。
「金の無駄遣いだっての」
目に入る建物に一言。
教育機関としては到底相応しくない、不必要なまでの豪勢な物。
要らない金。
「こんなのに金使うくらいなら税金に回せよ。税金が国民への公共サービスに還元されるんだから。日本は借金してるってのに」
嗚呼無駄無駄、とか一人呟く姿は、傍目からは怪しい姿以外何物でもない。敷地内に踏み込んでまだ誰にも遭遇していないから良いもの……。
広大な敷地に聳え立つ建築物は、シックな装いで西洋風の城の如く。
ここは何処かの異国か? とか思いたくなるのも強ち言えなくもない。
壮大優美。補足、無駄という財有物の権化。
学園案内を見て面倒だと思いながら、千歳はぁと溜め息を吐いた。
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