砂時計
01
 
Story2:It advances.

[2]






『私立紫堂学園正門前ー……私立紫堂学園正門前ー』

 機会音のアナウンスがバス中に響く。

 都市バスに乗って揺られること、乗り継ぎ含めて約一時間半。都市部から離れて都会の喧騒とは程遠い、閑静な地と表現出来る場所。

 良く言えば長閑。悪く言えば田舎。

 バスの乗客は、今や彼一人。

 運賃を支払い、段差に注意して下車する。

「君、こんな時期に紫堂学園に用事?」

「あ、はい。明日から編入する予定なんです」

「へぇ、そうなんかい。乗車ありがとねー」

「こちらこそありがとうございます」

 バスの運転手に丁寧に会釈して最低限に纏めたボストンバッグを持って正門へと向かう。

 バス酔いして不快感ばかりある頭痛を紛らわすために、空気を深く吸い込んで吐いた。

 道中生まれて初めて乗ったバスに物珍しくて一人で子どもみたいにはしゃぎ、不審な目で周りに見られる自分に気付いて赤面したりしていた。実は不審ではなく、反応が微笑ましくて見られていただけなのだが。

 眼前に聳えるは、見る者を圧倒させる巨大な門。門標には『私立紫堂学園』と記されている。

 門は厳重に閉められている。だがここに入らなくては何も始まらないから、彼は息をすっ……と吸い込んで――、

「すみません!」

 デカイ声で守衛に届くように言ったが、

「ぶっ!」

 間髪を容れずどこからか吹き出す声。それは、門の内側からで。白黒の警備員の制服を着用した青年だった。

 正門脇にある関係者用の通用門から出て来ることから、彼が守衛を担当していることは容易に窺い知ることが出来る。

「君、監視カメラ付いてるんだよ」

「……あ」

 青年が暗に言いたいことを理解して、カーッと顔に熱が上った。

(――は、恥ずかし……!)

 己の行動に「何てことしたんだ馬鹿!」と内心自分自身に意味もなく怒った。穴があれば入りたい気分だ。

「用件は?」

「明日から高等部に編入予定の、十河千歳です」

「ああ、十河君ね。入学案内と仮生徒証提示して」

 鞄の中からA4版の茶封筒を取り出し手渡す。

 中身を見て、仮生徒証に写っている写真と本人を見比べて相違ないか確認が終えてから入門の許可が下りる。

 ちょっと待っててね、の声とともに守衛の青年は門の中へと戻り、門に付けている物を弄って暫くすると門が開いた。

 ガガ……と自動で開き、少々驚いたのは言うまでもない。

 案内されるがままに中へ入り、正式に発行された生徒証と引き換えてから歩いて行こうとしたが、

「え、ここからだったら時間かかるよ」

「探索も兼ねてるので歩いてみたいんです」

「そうか。じゃあ迷子にならないよう気をつけて」

「はい、失礼します」

 やんわりと言って、慣れない学校というものに期待に胸を膨らませて一歩一歩と歩を進め始めた。

 初夏の風は心地良く、花の香が風に乗って柔らかく匂う。

 ふわりと吹く風は、まるで新たな一歩を踏み出すための背を押してくれるよう。

 閉鎖的な世界から外の世界に出ることがこんなに眩しいと感慨に耽るのは久しくて、疾うに忘れていた感情がゆっくりと物が滲むように思い出していく。

 煉瓦調の石畳の道が長く続いており、脇には木々が並木で連なっている。都会の喧騒からは掛け離れている自然の景色に、千歳は純粋に綺麗だと思った。

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あきゅろす。
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