夜行の桜姫



 私は、この地の神を喰らった。

 ……衰えて死に掛けていた神だ。私が喰らわずとも、いずれ死んでいた。
 

 獅桜は、私を金色の獅子の代わりに守神に仕立てようとした。
 私は神ではないとはいえ、死に掛けた神よりは力を持っていた方だ。神力とは違う、妖力という力を。
 その力を貸して欲しい、と獅桜は言った。
 彼も、必死だったのだろう。この地を守るために。
 そうでなければ、神を殺した物の怪なんぞに、助けを請う筈が無かったのだから。



 私は、獅桜の傍にいられるならば、なんでも良かった。

 物の怪の姿はすぐにやめた。
 獅桜と並ぶために、ヒトの姿をしてみせた。
 ヒトの振りをして、彼の従者を気取ってみた。
 それで少し、彼に近付いた気がした。
 

 四年もの間、獅桜は私の力を借りて、侵入してくる物の怪を殺め続けた。
 獅子の結界によって守られていた地は、今や玄関の無い屋敷も同然。物の怪は簡単に入り込んでくる。
 奴らがヒトへと手を伸ばす前に、獅桜と私が殺す。
 それを繰り返す。何度も、何度も、何度も。


 けれど、限界だ。


 既にこの地は、物の怪の巣窟と化している。
 どれ程獅桜が力を尽くしても、少しずつ、少しずつ、ヒトは消えていった。


 
 この地の民は、未だに神が死んだことに気付いてはいない。
 それどころか、今己らの地を守っているものが、『恐るべき物の怪』であることにすら気付いてなどいない。
 故に、物の怪が横暴に振舞う現状に、戸惑っているのだ。
 どうして? 剛天様に守られているはずなのに? と。


 もう、誤魔化せはしない。
 獅桜も気付いている。
 けれど『神は死んだ』などと、言えるはずもないのだ。


 獅桜は、迷っている。
 この現状を、どうするべきか、と。

 そして、その答えを、私は知っている。



2013/3/5



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