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「……んで、どーすんの?」

「えー?何が?」

「何がって………」


俺の質問に間の抜けた返事を返してくるソアに思わず溜め息がこぼれた。…この仕事の話を持ってきたのはアンタでしょうが。


「仕事の話だ、仕事の話。……どーすんの、俺と碧はその指名手配犯に顔を知られてる。かと言って無闇に捕まえようとすりゃ、やっこさんに逃げられるっしょ?」


そう言えばソアは難しい表情で「うーん…」と小さく唸った。


「……やっぱり、囮作戦しかないよねぇ」

「……なら、俺が変装して近付く。姿を変えれば、向こうも気付かないだろ」

「じゃあ、エルゼも碧ちゃんと一緒に囮やりたい!」

「バカ、遊びじゃないんだ。危ないから、お前は俺らと同行だ」


ついでに言うなら、教育上によろしくない。
……が、エルゼにそれは分かってもらえてないようで、エルゼは風船みたいに頬を膨らませて不服そうな目で俺を見上げてくる。


「ぶーっ、エルゼ平気だもん。囮だってちゃんと出来るもん」

「いや、そーいう意味じゃなくて……」

「良いんじゃないかなぁ?珍しい獣人がいた方が向こうも目を光らせて近付いてくると思うよ?」

「……大丈夫なのか?」

「なに、ヤバいと思ったら俺がエルゼを逃がす」


……ならいいけど。

俺が無言になれば、ソアが「じゃあ決まりだね」と手を叩いた。


「そうと決まればさっそく準備だ。俺は着替えるから、お前ら少しの間外に出てろ」

「あ?別にいいっしょ?今までだって下着姿でウロウロしてんの見てたんだ。着替えてんの眺めるのなんか今更――――!!?」


言い終わるよりも先に鈍い衝撃が腰に走った。それが碧の回し蹴りを喰らった痛みだと分かったのは床に突っ伏してから…。
そんな俺をズルズルと引き摺るようにしながらソアは部屋を出ていき、呆れたような溜め息をこぼした。


「…今のは、確実にハクア君が悪いと思うよ?」

「…俺は事実を言っただけでしょーが。……いってー…あいつ、マジで蹴りやがった…」


砕けた。これは絶対に腰骨砕けた。
あまりの痛みに体を“くの字”に捩らせれば、ソアは「まったくもぉー」と怪しい笑みを浮かべてポンポン、と軽く腰を叩いてきた。

バカ、触んな!!




―――それから30分ぐらいして、ようやく部屋の中から「もういいぞ」という碧のお許しが出たので、俺たちは部屋の扉を開けた。


「わぁ〜、凄い凄い!」


感心の声を上げるソアに同意するように俺も小さく頷いた。
確かにこりゃ凄い。たかがウィッグと化粧とだけでこんなに変われるとは……いやー、驚いたね。


「うん、よくまぁ化けれたもんだ。女っておっかないね」

「もう一回蹴り飛ばされたいのか、お前は」

「冗談、あんな痛みは一生御免だ」

「ねぇねぇ、ソアちゃん。エルゼ、可愛い?」


どうやらエルゼも薄くだが碧に化粧してもらったらしい。ソアが「うん、すっごく可愛いよぉ」と答えれば嬉しそうに部屋の中を跳ね回っていた。

……喜ぶ理由がよく分からん。



* * * * *



宿を出て街の広場を訪れると、そこはかなりの人混みで賑わっていた。


「ハクア君ー。ターゲットの姿、見えるー?」

「あー……顔忘れたからわかんねぇや」

「おい」


すかさず碧の突っ込みの声が飛んでくるが、忘れたモンは仕方ないでしょ。
俺は手渡された手配書にもう一度目を通した。写真に写るソイツは、何とも特長のない顔で、これを覚えてろと言う方が難しいだろうに……。
手配書と周囲を見比べていると、ふとそれらしい顔が目に止まった。



「……お、いた」

「どこだ?」

「向こうの道具屋の前。まだ獲物は捕まえてないみないだな」

「道具屋の前、だな…。よし、行くぞエルゼ」

「はぁ〜い!」


楽しそうな返事をして碧の後を追い掛けるエルゼ。
そして、二人がそのまま男の方に近付けば案の定、男に声をかけられていた。


「ん、接触したぞ」

「じゃあ、おいらたちも追い掛けよう」

「りょーかい」


そう頷き返して二人の後を着いていこうとした、その時。突然、俺たちの目の前を大勢の人が横切り、視界を遮った。


「うっ、うわ!何、なにぃ〜!?」

「くっそ!何も見えやしねぇ!」


――…散々揉みくちゃにされ、ようやく視界が晴れたころにはすでに二人の姿は見えなくなっていた。


「……ヤバイな、これ…」

「…どうしようか……」



そんな事を俺に聞かれても困る。





(アオ様)


あきゅろす。
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