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死神姫君と不実悪魔(女主)


 体が竦んだ。
 それは恐怖と怯えがシェラを支配したせいだ。
 ならば最初から逃げなければいいのだが、わずかな可能性にでも縋りたいのが普通だろう。
 デスサイズを取り上げられ、腹部に腕を回されたまま彼女はうなだれた。

「久しぶりの外に興奮してしまったようですね」

 小さく震えるシェラの肩に顔をうずめた男はいつもの調子でそう言う。
 そのまま彼女の首筋に唇を滑らせてきつく吸い上げた。
 びくりと跳ねるシェラを宥めるように何度か繰り返して、彼は彼女を担ぎ上げる。

「っ……!」

 いわゆるお姫様抱っこ状態に狼狽える間もなくセバスチャンは飛び上がり、朝日に照らされ始めた街を駆け抜けた。
 逃げ出せないようにか強く掴まれてはいるが、それほど仰々しい怒りは感じない。
 てっきりあのまま犯されてしまうものだと思っていただけにシェラの驚きは大きかった。

「……セバスチャン?」

「なんでしょう」

「いや、別に……」

 声音にもわかりやすい怒りは感じ取れない。
 憮然と彼の腕に収まるシェラは、肩すかしをくらった気分だった。

「久しぶりの外にはしゃいだくらいでは怒りませんよ。貴女を閉じ込めているのは私ですし」

 セバスチャンの言葉にシェラの顔は怪訝そうな表情を作るばかりだ。
 普段ならば、ここ数日の彼ならば、それにかこつけて彼女を辱めるだろうに。

 もっともそうしないならそれはそれでなんの不都合もないのだ。
 ただなにか微妙に居心地が悪いだけで、シェラにとっては喜ばしいこと。

 だがなんとももどかしい気持ちになる。
 セバスチャンに優しさじみたものを感じたくはない。
 普段の蛮行が酷な分、それがない分だけ優しさを覚えてしまう。
 やっていることなど最低極まりないというのに不可思議なものだった。


 死神はそれにわずかばかりの安堵を見いだし、そして悪魔は困惑を覚える。


 死神も悪魔も二人して違和感が拭えなかった。


 なぜこんな感情があるんだろう?



次章★調教DAYS V



2.20




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