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死神姫君と不実悪魔(女主)


 そうやって溜め込んでいた仕事を片づけまわり、すべてが終わったのは夜明けも近い頃。
 最近出歩いていなかっただけにシェラの体力は落ちていて少々足元がふらついている。

 デスサイズを地面に刺してそれにもたれ掛かる彼女の腕をセバスチャンが引っ張った。

「情けない人ですね。帰りますよ」

「だから、誰のせいだと思って……」

 すべてはこの悪魔の閉口する悪趣味と、そんな男を殺そうとした死神の浅はかさが理由である。
 しかし元はと言えば初めて人間の界隈に降りたシェラを大した意味なく襲ったセバスチャンが悪いとも言えるわけで、やはり根源は悪魔かもしれない。

 おかげで男というものが嫌いになってしまったのだし、今更蒸し返しても意味はないがとにもかくにも腹立たしい。

 シェラは怒りを隠さずセバスチャンを睨みつけ、そっぽを向く。

「こうしてで良いのならたまには外に出してあげますよ。もっとも、貴女が従順であればの話ですが」

「……なんでセバスチャンに私の行動すべてを仕切られなければならないんだ。もういい加減にしてくれてもいいではないか」

「それは無理な御注文です。私はこれでも貴女を気に入っているのですよ? わかるでしょう、シェラ」

 こんな男に気に入られても得なことなどなにもなかった。
 不自由と恐怖と屈辱だけだ。
 唇を引き結んで黙り込むシェラにセバスチャンはそれ以上なにも言わなかった。

 ずっと掴んでいた腕を離してシェラの頬を両手で挟み込んだ。

 数十センチの鎖が揺れる。
 闇にも映る光沢がゆらゆらと揺れて二人を繋いでいる。
 デスサイズは未だにシェラの手の中だ。

 瞬間、わずかな可能性に彼女の身体は動いていた。

「シェラッ! くッ」

 すべてを切り裂く刃が鎖を断ち切りシェラに自由を取り返す。
 驚きを見せる悪魔の腹に膝を打ちつけ地を蹴った。

 この数日待ち続けたチャンスを無駄にはできない。
 よろめく足取りで駆け出す彼女は唇を噛み締める。

 ここで逃げ切れなければ、どんなことをされるかわからない。

 力では及ばなくとも速さならばけしてひけは取らないはずだった。


 それが、平常時であるならば。



「逃がしませんよ? 残念でしたね、シェラ」


 首に冷たい手が触れた。
 それと同時に引き寄せられる。

 男の胸板に背を叩きつけられた彼女は絶望の匂いを間近に嗅ぎとった。




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