それは私ではないから
「こんにちは、ゴドーさん。今日は真宵ちゃんと春美ちゃん修行で来れないみたいです」
あの事件があってから、僕はほとんど毎日のようにゴドーさんに会いに来ていた。
「…あんたも毎日来なくたっていいんだぜ?まるほどう」
「邪魔ですか?」
「この件に関して責任感じんな、ってことだ」
そう言われてもどうしても気になってしまう。それは同情でも後ろめたさでもなくて、自分の決して報われない気持ちのせいだ。
「そうそう、昨日の裁判なんですけど…」
ここで話すことはだいたい、下らない世間話か裁判の話。それでも彼はちゃんと聞いてくれるし、興味も持ってくれる。
そんな話を暫くしていたら、ふと彼の纏う空気が変わった。そしていつもとは違う視線を投げかけてきた。
…正確に言えば僕にではないけれど。
彼は稀にこうなる。特に裁判の話になると。それはきっと僕の裁判に対する姿勢が彼女と似ているからなのだろう。
── 千尋
そう、聞こえた気がした。
僕は彼から視線を外して適当に話をまとめ、帰る旨を伝えた。なかなか面白かった、という言葉にぼんやりしながら相槌をうち席を立つ。
その愛しさと切なさが入り混じった瞳が映している人。
それは私ではないから
(そんなことはわかっているけど、もしかしたらと期待してしまう)
(その眼が向けられるべき相手が、僕である筈がないのに)
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