年下の事情(刹アレ)
「アレルヤ」
アレルヤ・ハプティズムが食堂で少し遅い夕食を取っていると、後方から聞き慣れた、それでいて数年前よりも幾分か大人びた声が聞こえた。
「刹那」
振り向くと自分の記憶の彼よりも成長した刹那・F・セイエイの姿があった。タブルオーの整備をしていたのだろうか。所々汚れが目立っている。しかし刹那はそんな事を気にするでもなく、すたすたとアレルヤの近くへと進んで来た。
「刹那も夕食かい?」
まあアレルヤにしても、少々の汚れを気にするような過度な綺麗好きではなかった。(仮にこの場にティエリアが居れば、「着替えて来い」などと言っていただろう。)
「ああ、…前の席良いか?」
アレルヤの前に存在する空白を指し相席の了解を得る。アレルヤは、「勿論」とにこやかに答え刹那に席を勧めた。
それからの会話は、たわいもないものばかりであった。今日の事、今食べている夕食のメニュー、明日のトレーニングについて…。
互いに自分から話す性質ではないので、静かなゆっくりとした時間が流れていった。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様」
いつの間に食事が終わっていた。空腹が満たされたのだろう。2人の表情に満足感が零れた。
「そうだ。何か飲むかい?」
アレルヤは立ち上がり、「ミルクが良いかな?」とにこっと笑って刹那に食後のドリンクを提案した。しかし刹那は首を横に振り、おもむろに口を開いた。
「ありがとう。だがミルクはいらない。コーヒーをもらえるか?」
「えっ、コーヒー?」
予想外だ、と言わんばかりのアレルヤの言動に刹那は首を傾げる。アレルヤもコーヒーくらい普通に飲むだろう、何故そこまで驚愕の姿勢をとるのか刹那には理解が出来なかった。
「俺がコーヒーを飲むことに何か問題でもあるのか?」
嫌味でも何でもなく純粋にそう思いアレルヤに問う。
すると、アレルヤは刹那の表情を見て、彼が気を悪くしたのかと思ったのだろう。申し訳なさそうな表情を宿した。(しかし、彼の顔に硬い表情が宿っているのは何時もの事であるのだが。)
「えっと、あ、その、…ごめんね?ただ、刹那がコーヒー飲んでるところ見たこと無かったから」
ちょっとびっくりしたんだ、気を悪くしたなら…ごめんなさい…と、しゅんと小さくなった。そして、刹那の様子をちらちらと見ている。その姿はまるで、子犬が粗相をして飼い主の様子を伺っているようだ。(鍛えられた成人男性に子犬と表現するのは、如何なものかと思うが)
刹那はそんな彼を見て、柔らかい表情を向けた。中々見られない、柔らかで優しい表情だった。
「アレルヤ、そんな顔をするな。俺は何も怒っていない。」
柔らかい声でアレルヤを宥めた。
これ以上、アレルヤの悲しそうな顔を見るのは刹那としても居心地が悪い。
「あれから何年も経っているんだ。俺もコーヒーくらい飲めるようになる。」
「そうだよね…コーヒーくらい飲めるようになるよね」
それに刹那も二十歳になったんだもんね・・・とアレルヤがしみじみと呟いた。
その言葉に刹那の体がびくりと反応した。
「ああ、だからもう子供ではない」
「刹那?」
小さく呟くと、机の上に添えられていたアレルヤの手をじぶんの方へと引き寄せた。
アレルヤは何が起こっているのか飲み込めていないのか、きょとんとした顔で刹那を見つめていた。そんなアレルヤに気づき刹那は小さく笑って、そのままアレルヤの手に自分の唇を落とした。
「ちょ、え、せっ、刹那!えぇっ」
状況が飲み込めたのだろう。予想もしない出来事に顔を真っ赤にして動揺を隠すことが出来ない。焦るアレルヤを尻目に、刹那は次の行動に移った。
「ひゃぁっ、ん…刹那、…くすぐったい…よ、」
刹那はアレルヤの手を嘗め始めた。何度も何度も、
嘗める度に、ぴく、ぴく、と震えるアレルヤの手が刹那を更に高揚させた。
「ん、ぁ…」
ただ嘗められているだけであるのに、まるで夜の営みの最中の様な声が漏れてしまう。アレルヤも自分から発せられた声とあの声とを被らせてしまい、赤く色づいた頬を更に染める。
「っ…刹那…もぉ、だめ…」
限界、というかのように力の入らない手を最後の気力で刹那から奪った。
「刹那、」
何のつもりで…?と問うつもりで刹那の顔を向く。すると、余りにも真剣な彼の眼差しに思わず言葉が喉を通らなくなる。
「もう、俺は子供ではない。だから、あの頃のように唯の弟のような立ち位置で満足する気もない。それ以上の存在になりたい。お前にとって特別でありたい。そのために手加減はしない。」
俺はアレルヤが好きだ。
年下の事情
(えっと、その、あの刹那)
(好きだ)
(とととととりあえず、コーヒー淹れて来るね!!)
(…逃げられた)
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