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姉とホラーを見る
 

少し前からそんな気はしていた。



「三郎…Tバックって、女が男を誘惑する為に穿くものだよな…」

「まあ間違ってねーと思うよ」

「…それを持ってる女の人って…つまり…誘惑したい男がいるんだよな…?」

「そうなんじゃないの。なに、名前さんがTバック持ってたのか?」

「…」

「どうしてそれを知ったんだよ?」

「その…ベランダに干してあったの見たんだよ」



名前の部屋にこっそり忍び込んで下着を漁っていたら、出てきたんだよ…黒の…Tバックが…!!
三郎には適当言ってごまかしたが、名前がTバックだぞ。最初はきっとあんな顔して淫乱で、こういうのを穿いて一人で喜んでいるんだと信じた。
だがその考えは次第に「名前に彼氏がいて、彼氏を誘惑する為に購入したもの」に変わってきて…すごく不安になった。泣きたい気持ちでいっぱいになった。名前が俺以外の男に笑いかけたり、あの身体を抱かせたりしているのだと想像したら…

『…どうかな…これ…恥ずかしかったけど、XX君の為に買ったんだよ。喜んで…欲しくて…』
XX君はその後下半身を喜ばせてもらったりするんだろ?ちくしょう、俺の想像力が豊かなせいで更に泣きたくなった。

そんな俺の心を表したかのような大雨が降った。ふ…空も何か悲しいことがあったのだろうか……なんか恥ずかしくなってきた
そういえば名前は今朝、傘を持っていかなかった気がする。確認しようと電話をかけてみたが、出ない…。ま、不在着信残ってればかけなおしてくれるだろう。それに名前なら折りたたみ傘とか鞄にいれてるかもしれないし。俺は傘忘れたけど、近道をダッシュで帰ればそんなに濡れないだろ。よし。


下駄箱で靴を履き替えている途中、名前を見かけた。今日は委員会がないのか!?よっしゃラッキー!名前に一緒に下校できる!声をかけようとしたら、その隣に潮江先輩がいることに気付いた。俺はすぐに隠れた。いや、なんで隠れてんだよ俺!?普通に声かければいいだろ!



「なんか潮江にしては可愛い傘だね」

「母さんの持ってきちまったんだよ」

「ほんとに〜?本当は潮江の傘なんじゃないの?」

「しつこいぞお前」



え…?ちょっと…え?
潮江先輩が開いた傘に、入っていく名前が俺の目に映った。相合傘じゃんよアレ…え?どういうことなんだよ?…は、早く帰らねーと…そうだ、今のは見間違いだきっと…雨に濡れて目を覚まそう…。俺が名前より先に帰って、雨で少し冷えた身体を何かあったかいモンでも飲ませてあっためてやるんだ…

俺は走った。雨の中を全力疾走した。近道を通ろうとしたら、潮江先輩と名前がいたので違う道を通った。見間違いじゃなかったぜ、はは…ははは…いやだって相合傘って…俺一度もしたことないんだぞ?本当だぞ!?それを潮江先輩が先になんて…く、悔しい!!くそーこれは涙じゃなくて雨だ!雨の水だ!うわーー!!

帰ってからもしばらくの間、潮江先輩への嫉妬でイライラしてしまった。それが態度に出てしまっていたみたいで、名前が謝ってきた。ああそうか、名前は今日家に携帯を忘れちゃってたのか…
いや電話に出れなかったことで怒ってるんじゃないんだ、俺は…この時俺は嫉妬とショックでどうにかなってた。名前に…告白してしまったんだ。

俺の好きな人は、面倒見がよくて、俺に美味しいご飯をつくってくれる料理上手で、可愛い。世界一可愛い!!名前と同じ学年で、生徒会。生徒会っつったら女子は名前しかいない。もうこれは名前を好きと言ったようなモンだ

なのに名前は妙に冷静な表情だった…



「直接ではないけど遠まわしに告白したんだぞ…どういうことなんだこれは…」

「名前さんって天然なんじゃない?どう思う三郎」

「え〜八左ヱ門の言い方に問題があったんじゃねえの?」

「だって「俺の好きな人?今…俺の目の前にいる人さ」くらいわかりやすく言ったんだぞ!」

「相手にされてねーんじゃねーの?わかっててスルーしてんだよ」

「…あ、ありえる…」

「三郎!なんてこというんだよ!」



それでもまだ俺は、名前が告白されたことに気付いていないんじゃないかって方を信じている。自分の都合のいいように考えてしまうんだ。名前と結ばれることは有り得えないのだと何回も何回も自分に言い聞かせてきたのに、希望を捨てきれない。俺を好きになって欲しい、俺だけを好きになって欲しいだなんて…

名前、俺と同じ学年のヤツが好きだって言ってたな…三郎や雷蔵、兵助と勘右衛門は名前と面識ないと思うし…この四人は違うよな、多分。ヒントが少なすぎる。二年生なんてたくさんいるぞ、名前。お前に好かれている妬まし…いや、羨ましい男は一体誰なんだ…

やっぱりどうしても気になる
でも本人にこの話題を二度も振れない…クッ…どうする…。そうだ、潮江先輩に聞いてみるか?いやあんま話したことないしな…そんな人に突然姉の好きな人についてなんて聞けるわけない…他に名前と親しくしてる人って…立花先輩?でもあの人どうも苦手なんだよな…話しかけ辛い…



「ただいまハチ!」

「おかえり、姉ちゃん」



結局今日は諦めて家に帰って名前の帰りを待っていた。なんだか上機嫌だ。よくわからないけど、名前が嬉しいなら俺も嬉しい気持ちになる。
名前は鞄を漁り、DVDを取り出した。電気の光で反射してパッケージがよく見えないので、何のDVDかはわからない



「ご飯食べたらコレを見よう」

「何のDVD?」

「ホラー!!」

「ホラー!!?」

「R15指定の脳みそドロドロ系だよ!!」

「なんでそんなモン突然!?」

「立花が貸してくれた!」



上機嫌なのってそれかよ!?立花先輩にDVDを貸してもらったことがそんなに嬉しいのか!?それともそれを見れることが嬉しいのか!どっちなんだ!いやどっちでもいいよそんなことは!

俺はひらめいた…

これを見ている時、怖がるフリをして名前に抱きついたり出来るんじゃないだろうかと…そして怖がりの弟を装って「怖くて一人で眠れないから一緒に寝て欲しい」とかできるんじゃないかと…。…いやこれはちょっと難しいな…とにかく名前と密着できるチャンスだ!!


名前がつくってくれた晩飯を済ませ、早速!
DVDプレーヤーの電源を入れる時、名前がデッキに向かって四つんばいになったので尻をよーく観察しておいた。うん、撫でたい。だが将来的にはその尻に俺の…いやいやまだ早いぞ、俺!!雰囲気出た方がいいでしょ、と名前がリビングの電気を消してから俺の隣に座る。自ら部屋を暗くするとは…コイツ…!!



「あ、これ三郎が話してたやつだ」

「三郎?お友達?」

「うん…だーいぶ前に言ってたんだけどな」



随分前に嬉しそうに感想言ってたなー…役者の演技やその場の演出が他とはもう全然違う!とかって目をキラキラさせながら言ってたっけな……ええい、グロシーンはまだか!思わず絶叫してしまうような恐ろしいシーンはまだなのか!さっさと俺と名前を密着させて…

…俺が密着する前に、名前が俺の腕にしがみついてきた。おい、ちょっと胸が、胸が当たってるぞ!?なんか妙に柔らかいぞ…ブラジャーしてないのかよ名前…!?あ、し…幸せだ…



「ギャーーーッ足!足が!!」

「足…?ああ…悲惨なことになってるな…」

「叫び声が痛々しい…!」

「迫真の演技だなー」

「こんな血みどろで大変なシーンなのによくそんな感想でてくるね…」

「姉ちゃんが怖がりすぎなんだって」



まあ存分に怖がってくれ姉よ、恐怖に震え俺の腕にしがみついてくれ。なんなら抱きついたっていいんだぞ!そんな願いを神様が聞き入れてくれたのか、姉ちゃんキャ〜と言いながら俺に抱きついてきた。やばいな鼻血でそうだ…名前はテレビに夢中だし、こっそり拭いとこ

こうして幸福の2時間が終了した

見終わった後も名前はブルブル震えていて、俺から離れようとはしなかった。



「ハ、ハチ…」

「どうした?」

「一緒に寝てください」


ブハッ


「何言ってんだよ姉ちゃん!?」

「…怖くて一人じゃ寝れそうにない…」

「自分から見たくせに!高校生にもなって何言ってんだ馬鹿!」

「…だ、だめ?」



お前ッ…お前な…!!胸のふにゅっとした感触を腕に感じただけで鼻血出た俺が、名前と一緒に寝るなんてことになったらどうなると思ってんだよ!?ダメとかじゃないんだよ!俺の理性の問題なんだよ!好きな女と一緒に寝るだなんてそんな…そんな…!!



「仕方ねーな…」

「いいの!?」

「今回だけだぞ…」

「ありがとハチ!」



あああ…やっちまった…
我慢できるかわからないのに今回だけなんて言っちまった…今回だけなんて言わずに次回もあって欲しいモンだ…そうだ自分に言い聞かせろ!俺は名前の弟!弟だから姉ちゃんに性的興奮を覚えたりしない!今夜だけでいいから、興奮しないでくれ…頼む…

 



あきゅろす。
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