弟と好きな人の話をする
午後の授業の途中、大雨が降ってきた。確かに今日の天気予報は雨とあったが、太陽がキラキラ輝いている上に暑かったので、雨が降る天気とは思えなかったのだ。私が今日傘を持ってきていない理由は以上である。
「バカタレ」
潮江はその一言で私を一蹴。
はぁあ…傷つく!確かにバカですよ!天気予報を見た上で傘を持ってきていないってなんなのお前?って言われても仕方ないよ!でもその呆れたような顔…冷たい!友人のことをもっと思いやった言葉を選ぶことが出来たハズなのにあえて「バカタレ」!!
「言っとくが俺は傘を二本も持ってきてないぞ」
「…潮江クン、相合傘しなーい?」
「本気で言ってるのかソレ」
「なにその目…クラスメイトを見ているとは思えないくらい冷たい…」
「俺にお前を家まで送れってのか」
「そんなこと言ってないじゃんかよ…バ、バカ!潮江のバカ!よく考えたらてめーなんかと相合傘して誰かに見られたら一生笑いモンだな!!フン!!」
「名前から言い出したことだろうが!なんで俺がそこまで言われなきゃいけないんだ!」
「そうだ立花!立花なら「傘?フゥン…予備がある。スッ」って出してくれるに違いないね!…あれ?立花は?鞄もない…」
「仙蔵ならこれ以上雨が酷くなる前に、って帰ったぞ」
「ああああああッッ!!!」
「傘を出す音まで表現したのにな。残念だったな」
「ニヤニヤすんな!クソッこうなったらテメーの傘を奪ってやる!」
「なっ!やめろ!」
結局潮江の傘を奪うことは出来ず、相合傘して笑いものとか言ってしまった手前、傘にいれてぇ〜なんて言えない。そうだ孫兵!孫兵は家が近いから帰りの方向一緒だし、傘入れてくれないかな…。中等部の孫兵の教室へ行くと孫兵がいなかった。帰ったみたいだ。
みんなもっとゆっくりしろよな…はぁ
そうだ、私なんかよりハチは大丈夫なのか!?
ハチが濡れたら嫌だ!風邪ひいたりしたら嫌だ!いやでも雨に濡れるハチもちょっと見てみた…いや!何を考えてんだ私ァ!
今日に限って携帯家に忘れちゃったからハチと連絡取れないし…くぅ…大人しく濡れて帰ろ…。教室に戻ると潮江がまだ残っていた。もう帰ったと思ってたのに。
「やっと戻ってきたか」
「なに、なにか私に用?」
「途中までなら入れてやる、さっさと準備しろ」
「…まじで!?」
「ああマジだよ、早くしろ置いてくぞ」
潮江はいいヤツだな、うん。
ちょっと恥ずかしいけど相合傘して、結局家まで送ってもらってしまった。なんかあったかいもんでも飲んでいけよ、と言ったが「弟がいたらマズいだろ」と言って帰っていってしまった。なんだよマズいって、変な言い方しやがって…。今度、何か別の形でお礼しよう
部屋で部屋着に着替えていると、バタンと扉の閉じる音がした。ハチが帰って来たのか!
「おかえり…うわっズブ濡れ!!」
「……ただいま」
「わ、ちょっと待ってて今タオル持ってくるから!」
あんだけ濡れてるし、ええいバスタオルでいいや!タオルを持ってハチのいる玄関に戻ると、何故かハチがシャツを脱いでいた。
「なっなんで脱いでんの!?」
「…このまま家に上がったら、床濡れるだろ」
「あ…ああ、そ、そうだね…」
「玄関で着替えちゃうから、姉ちゃん適当に着替え持ってきてくれねーか」
「わ、わかった…」
ハチの上半身…ハチの上半身…ち、乳首の色とかよく見とくんだった…ビックリしてすぐに目をそらしてしまった…ハチの着替えを持って玄関に向かう。今度はちゃんと見るぞ!!
「お待たせ、はい着替え」
「サンキュー」
クッ…!!ハチがバスタオルを首にかけているせいで乳首が隠れて見えない…!!深夜アニメか!!乳首が見たければDVDか!!やっぱりさっきちゃんと見ておけばよかった。…ハチの様子がなんかおかしい。おかしい、っていうかなんか…怖い。なんでだろ、朝は普通だったのに…
「姉ちゃん、携帯見た?」
「え?あ…ごめん、見てない…家に忘れてて」
「…そ」
えっなに!?携帯に何か秘密があるのか!?
急いで部屋に行って携帯を見るとランプがチカチカしていた。見たらハチから不在着信があった。まだ私が学校にいた時間に電話してくれてたみたいだ
うっ…で、出れなくてごめん…バカな姉ちゃんでごめんなハチ…!!これは私の想像だけど、ハチは私が傘を持っていかなかったのを心配して電話してくれてたのかもしれない。自分はズブ濡れで帰ってきてんのに…あああああもう本当に私は!!リビングに戻ると、ハチがソファに座ってテレビ見てた。う…とりあえず、謝らなきゃ…
「ハチ…」
「なに」
「…電話でれなくてごめんね」
「いいよ。忘れたなら仕方ねーって」
「…うん…」
「…座んなよ」
「うん…」
ハチの隣に腰かける。
電話に出れなかったくらいで機嫌を損ね怖い顔をする弟ではない。なにか、もっと別の理由があるに違いない。なんだろう…
「…」
「…あのさ、姉ちゃん」
「なに?」
「姉ちゃん、潮江先輩と付き合ってんの?」
「は!!?なんで潮江なの!!?」
「だって…その…。潮江先輩じゃなくてもさ、彼氏とか、いんの?」
「いないいない!いるわけないよ!だって私は…」
ハチが好きだもんよ!と言おうとしたけど、グッと堪えた。なんで好きな人に潮江と付き合ってるなんて思われなきゃいけないんだ…うわあああ…いや勘違いする要素はあったかもしれないよ?委員会一緒だし、よく一緒にいるし…でも…でも…
「す、好きな人いるし…」
「…っ…だ、誰だよ」
「誰って…その…ハチとおんなじ学年の…」
「誰だよ!」
「いっ言えるわけないだろ!これ以上は秘密だよ!」
「なんでだよ、教えろよ!」
「ハチは!ハチはいるの!?好きな人!」
「なんで俺に聞くんだよ!言えって、ほら!」
「ひぐ!!」
ハチは私のわき腹をくすぐった。ひーコイツ!
どんなに足をバタバタしても身をよじってもハチがやめることはなくて、呼吸が苦しくなるまでくすぐられた。時折「あっ」とかって変な声が出てしまった。
…あれ!?これ見方を変えれば私がハチに押し倒されて喘がされているってことにならないか!!?…ならないか…。ハチの手がピタリ止まった隙を見て、私は起き上がり呼吸を整えた。
「…俺は好きな人、いるよ」
誰なのそれ!!?女特有の陰湿な嫌がらせをするよ!!…なんて、ハチの好きな人に出来るわけないよな…はぁ。思わず泣きそうになった。だが私はその事実を受け止めた。ハチには好きな人が、いる…
「そうなんだ、どんな人なの?」
「どんなって…」
「いいじゃん、名前聞いてるわけじゃないんだしさあ」
「…面倒見がよくて」
「うんうん」
「料理がうまくて…」
「うん…」
「か、かわいい」
「…」
面倒見がよくて料理がうまくて可愛い…?
料理がうまくて…?
私はハチに喜んで欲しくて料理とか極めてきたつもりだったが…その上を行く女の人がいるんだ…そして可愛い…面倒見がいい…私が今までつくってきたメシなんてその人のメシに比べればゴミみたいなモンなのかもな…
「そうなんだ…もう付き合ってんの…?告白とかしたの…?」
「付き合ってないし告白もまだ、っていうか出来ないな」
「できない…?」
「好きになっちゃいけない人を好きになっちまったんだよ」
好きになってはいけない人…?
ま、まさか…ハチ…!!
「もう一緒にいれれば幸せだなって思う」
「…その人は、同じ学校の人なの?」
「え?…ああ、学年は違うけど」
「じゃあ、その人との時間を大切にするんだよ。」
わかった、わかってしまったんだ私…ハチは多分…潮江が…潮江がすきなんだ…あいつなんだかんだで面倒見いいと思うし、料理は上手いかどうかわかんないけど、可愛いっちゃ可愛いし、学年違うし同じ学校だし、ハチにとっての「好きになってはいけない人(同性)」だし…
ハチは暗に私に「潮江に手を出すな」と言ってるんだ。だからこんな話を持ちかけてきたんだ。そうだ、きっとそうだよ…
「最後にこれだけ聞いていいかな、ハチ」
「?」
「その人は…何委員なの?」
「…生徒会だよ」
ほらなやっぱりーーー!!確信したよ!!ハチは潮江が好きなんだ!!決定!!だって生徒会の女子って私しかいねーし!!やっぱり潮江だ!!ハチが好きなんだから応援しないと…ハチと潮江の仲を…応援…でき…できるかボケェーーーッ!!
次の日の朝、いつものように生徒会室に向かう。
中にはいつものように潮江がいて、既に作業していた。おう、おはようと挨拶してくる潮江にまずニッコリと笑って挨拶。次に昨日のお礼と言っていつも学食の潮江に弁当を渡す。マメなやつだなと言って潮江が受け取る。あ、弁当に何か入れたりとかって言うのはしてないよ。
笑顔で挨拶したのは、宣戦布告の意味をこめてだ。これから潮江に徹底的にいやがらせしてやるからな、覚悟しろよ。まず潮江の使っている消しゴムにこっそり短く折ったシャー芯を刺す。ふふ、消しゴムを使った時、書類にビーーッと黒い線が描かれた時の潮江の顔を想像するだけで楽しくなるぜぇ…!
「ニヤニヤしてないでさっさと仕事しろ。…何か嬉しいことでもあったのか?弟のことで」
「アア!!?」
「なっ…なんだよ…」
テメーがそれを言うか!くそー
お前にハチはやらん!!お前らの交際は姉さんが許しませんよ!!絶対にだ!!
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