♭ハル(復活)
「遅いですよぉ!」
ぷぅ、と頬を膨らまして俺を睨むハルに苦笑してごめん、と謝れば彼女は本当に謝ってますか?と少々怒っているようだ。時計を見ればそれは仕方もなく……待ち合わせの時間から30分遅れている。理由は一応あるのだが何を言っても言い訳になるから俺はただごめん、とだけ繰り返した。
「今度からは気をつけてくださいよ?」
「今度があるんだ?」
「もう!」
早く行きますよ!とずんずんと歩き出した彼女の後を笑いながら俺は追いかけた。
太陽が眩しく地上を照らして、昨日までの雨が嘘のようだ。
「……あの」
「なに?」
「手、とかつなぎます?」
「ぶっ」
「なんで笑うんですか!!」
それはハルの顔が真っ赤で、なのに強がって勝ち気な事を言ってるからだよ。それがすごく可愛いんだ、と心の中で呟いてから俺は何でもない、とでだけ返した。全く納得いってない君だったけど、恥ずかしさの方が勝ったのかそれ以上は何も追求してこなかった。だから俺は緩む頬もそのままにハルの手をとった。
「つないどく?」
「嫌ならいいんですよ!」
「俺は全然嫌じゃないよ」
「……それならいいです」
今、すっごい可愛い顔になってるって分かってる?だけどそれは俺の中だけで完結させておこう。だってまだまだ君のそんな顔を見つめていたいから。
手を繋いで歩き出した二人の間に会話はなく、でも掌から伝わるぬくもりはとてつもなく愛しかった。信号が赤になって、俺達は足を止めた。不意に交わった視線。にこっと笑いかけたら君はまた頬を赤く染めてから笑い返してくれた。
「可愛いなぁ」
「なっ!」
つい口からこぼれた言葉に案の定ハルは顔を真っ赤にさせて、そんな君を見てくすくすと笑っていたら、君は何かを言いかけた。だけどそれと同時に信号は青に変わり、スクランブル交差点は動き出す。だから俺はハルの言葉を聞こえないフリをして歩き始めた。
少しだけ立ち止まるのも悪くない。後ろを振り返るのも時には必要だ。そんな風にこれから、君と歩いていけたら俺は幸せだと……心の中で呟いた。
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