ヒルダ(TOR)
「ヒルダ愛してる」
唐突にそんな事を言えば、案の定ヒルダは怪訝そうな顔をした。口元まで運んでいたティーカップを下ろすと何か言いたそうに俺を見た。
「ヒルダは?俺のこと愛してる?」
頬杖ついて、少し視線を落として上目遣いで言ってみるも効果は無し。いや。相手が不機嫌になったという点では効果はあったのかもしれない。
「そんな簡単に言えるような言葉は私はいらないわ」
「ヒルダにしか言わないよ?」
「そういう問題じゃないわ」
頭を抑えてヒルダはそう言うとティーカップから紅茶を飲んだ。
うららかな天気の中カフェでお茶。まったりと過ぎるこの時間はとても居心地のよいものだ。しかしそう思ってるのは自分だけのような気がしていた。
「ねえ、ヒルダ」
「今度はなに?」
「愛はいつか消えるものだと思う?」
「いきなり哲学的な話をふるのね」
それでも先ほどよりは機嫌がよくなったのかヒルダは考え込んだ。
伏せた瞳と顎に添えられた細い指。ウェーブのかかった漆黒の髪を一度かきあげてから俺を見る。
「そうね。愛というもの自体形がないものだと思うから消えるという言葉が当てはまらない気がするわ」
「それじゃあヒルダにとっての愛って何?」
「私にとっての愛は、」
そう言ってヒルダはうつむいた。俺は手持ちぶさたに紅茶を飲む。もう冷え切っていた。カップを戻したと同時にヒルダは顔を上げた。その頬はわずかに紅潮していた。
「あなたと過ごすこの時間かしら」
「え?」
予想もしていなかった答えに俺は固まってしまった。ヒルダも恥ずかしいのかティーカップをもてあそんでいる。
「それで?あなたの答えは何なのかしら」
照れ隠しに早口でまくし立てたヒルダに、やっと硬直のとけた俺は嬉しさがこみ上げてくるのがわかった。
「愛は消えないよ」
「その心は?」
そっとヒルダの手を取って握りしめる。
「ヒルダが生きている限り、俺の愛はずっと君とともにあるから」
「クサイわね」
「でもヒルダの顔赤いよ?」
そんな風に過ごす時間。
君も同じ思いでいてくれたことがとてもうれしかった。
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