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カガリ

「カガリ……」

 目の前で木の幹に背を預け、幸せそうな寝顔を見せる彼女の名前を呟き、息をはく。これでもオーブ首長国の代表、ウズミ・ナラ・アスハの娘である。世間的にいえばまさに『お嬢様』という部類に属するのだが、彼女は一般的な『お嬢様』のイメージからはかけ離れている。行動力があって言いたいことはずばずば言う。公の場以外での正装は好まず、いつもラフな格好をしては時には男にだって間違えられる。だけどきっと……このオーブを愛する気持ちは誰よりも強い。ウズミさんには負けるかもしれないけれど。
 そんな身である彼女だが、今日も今日とて、彼女は礼儀作法を学ぶ時間を抜け出してここへ来ている。ちょうど彼女の元を訪れたものだから、俺が彼女を捜す羽目になってしまった。でも彼女がいるところはたいてい見当がつくし、探し当てるのにさほど苦労はしなかった。現に捜索を頼まれてから数分で今、彼女の目の前にいる訳である。

「カガリ。いつまで寝てるつもりだ」
「うぅん……あと五分」
「先生はかなりご立腹だぞ」

 起きろ!と少し強く彼女の肩を揺さぶれば、眉間に皺を寄せながら彼女はゆっくりと瞼を開いた。まどろんだ瞳が俺を写す。

「あ……−−−?」

 寝ぼけた声で俺の名前を呼んだから、俺は苦笑しながらそれにこたえた。

「まったく。困ったプリンセスだな」
「それはやめろと言っただろう!!」
「そっちこそ。もう俺に迷惑をかけない、って言ったはずなのにな」
「う……」

 それはだな、と口ごもるカガリに笑みをもらす。別に迷惑だなんて思っていない。そう言ってしまえばいいのに。だけど俺はその一言を言ってはいけない。今はまだ……

「ほら。俺も一緒に習ってやるから」
「お前はどうしてここに?」
「ウズミさんに会いにきた」
「え?でもお父様は……」
「そう。なんかすれ違いだったみたい」

 だから付き合ってやるよ、と言って彼女を立ち上がらせる。
 本当は知っていた。今日ウズミさんがこの屋敷にいないこと。
 本当は君に会いにきたんだよ。君に伝えないといけないことがあるから。

「ほら。早く行くぞ」
「うぅ……」

 渋っているカガリを半ば引きずりながら俺は歩き出した。
 いつもの日常。
 ありふれた情景。
 昔からこの関係は変わらない。だけど俺は……いつかこの関係を壊してしまうだろう。だからもう少しだけ……君の時間を俺にくれないか。

 風が頬を掠めた。
 つないだ手から伝わるぬくもりは鮮明にこの記憶を埋め尽くす。




「……夢か」

 目が覚めた。目覚まし時計に視線を移せば、アラームをセットした時間よりも早く目覚めたようだ。起き上がり一度体を伸ばす。カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。数分の後、騒々しいアラームが鳴り響き一日の始まりを告げた。

 時はC.E.70

 ザフトが地球軍の新型兵器−−−通称ガンダムを強奪する事件が起こる一年前に遡る。


★☆★☆★☆★
連載原案の一つ。
昔は書きたいことばっかり先走ってたなぁ(笑)
ちなみに企画倒れのやつです;
ユウナ弟設定。
けっこう気に入っていたんですがね(笑)


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