「友達ごっこは歌仙くんの負けということで……、離してあげれば?」
顔色一つ変えず、むしろ笑み浮かべながらセイラは歌仙へと声をかけた。枢へと向けていたナイフも下ろした。
「セイラ様へと傷をつけたのです。処分させて下さい」
無表情の歌仙はセイラの言葉を素直に聞き入れようとしない。
歌仙からしてみれば、今まで吸血した者を生かしておくことさえ可笑しいのだ。
この学園へ来てからというもの、セイラは何かと血を流している。
今回は、セイラがわざとそう仕向けるようにしたが、それでも許せなかった。
本来ならばあってはいけない、貴重だからこそ、それを知るのはわずかな存在だけでいい。
「アレは枢先輩を守るためで、先に手を出したのはアタシなの。分かる?」
「解せません。玖蘭枢如きに、貴方様が下がる必要などありません」
セイラは小さくため息をついた。歌仙はNGワードを言ってしまったのだ。これでもうスミマセンデシタでは済まない。
まぁ、それは枢へとナイフを向けた時点で分かっていたことだ。
セイラは目を閉じて、長い前髪をかき上げた。もう、こうなった歌仙を止める方法は一つしかない。
次にセイラが目を開いたとき、月色の瞳が吸血鬼達の心を奮い立たせた。
始祖としてのセイラが目覚めたのだ。
その存在を知る麻遠、拓麻、支葵、そして枢の四人は即座に跪く。
ほかの吸血鬼たちは、戸惑い一歩たりとも動けないでいた。
一翁どころか純血種である枢までもが跪く相手、いったい何者だというのだ。
「守ろうとしてくれるのは嬉しいが、歌仙はわらわの事になると過剰すぎじゃ。今は、大人しくしておれ」
セイラは歌仙の額へと手を伸ばす。
すると、歌仙の額に緋色の紋様が浮かび上がり、体が足元から崩れていく。
歌仙の体だったものは羽音を立てて飛ぶ蝙蝠とかしていった。
十数匹の蝙蝠が四方八方へと飛んで行き、歌仙がいた証として、彼に傷つけられ星煉が残るのみで他は跡形もなく消え去った。
「痛かったじゃろうに……」
支えを失い、崩れ落ちる星煉を受け止めたセイラは、歌仙が傷つけた箇所へと手を当てた。淡い光が、傷を癒していく。
「か、なめ……様」
「無事じゃから、お主は少し休んだほうがいい」
セイラが笑みを浮かべ、そういえば星煉は安堵の表情を浮かべながら意識を手放した。
「誰かこの娘を運んでやってくれぬかえ?」
「僕が連れて行くよ。セイラちゃんはみんなに説明するんでしょ? 僕は君の事知っているから、話を聞く必要もないし」
立ち上がった拓麻がセイラへと近づき星煉を受け取る。
「すまぬのう、拓麻坊や」
「こういうときは、ありがとうだよ」
セイラへと笑みを向けてから拓麻は一人寮の奥へと戻っていった。
「さて、玖蘭の枢坊や。いつまでもそうしているつもりじゃ? お主が連れてきた若人達が混乱しておるぞえ」
さぁ、種あかしといこうかのう。
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