「先程の話……真でございますか」 漆黒の部屋の中に浮かぶは、蝋燭の灯り。 仄かな光に照らされた室内には、キングサイズのベッドが一つ。 そのベッドに横たわる少女へと男は話しかけた。 「あぁ、真実じゃ。わらわは孤独に耐えられぬ。歌仙も悲しくはないかえ?」 「確かに、私と同じ種族はおりません。ですが、私にはセイラ様がおりますから、悲しくはありません」 セイラは起き上がり、ベッド脇に座る歌仙に背中から抱きついた。 「嬉しいことを言うてくれる。わらわの自分勝手な行いで、歌仙を産み出してしまったと言うのに……すまぬな」 腰に回された小さな手に、歌仙は自分の手を重ねた。 主人であるセイラに謝られる事など何もないのだ。むしろ、自分の方が謝らないといけないのだ。 セイラに仕えているのは、他に居場所がないから。 棄てられる事が、一人になること怖くて……セイラにすがりついているのは歌仙の方だからだ。 「私は……セイラ様の影。いかなるときも、セイラ様と共に」 そう、例えそれが死だとしても歌仙はセイラと同じ道を進む。セイラと共にいることだけが、歌仙の存在理由だから。 「ありがとう、歌仙」 「いえ……それよりも、無理をなさらずお休みください。私は血の調達に行きますので」 歌仙はやんわりとセイラの手をほどくと、体を横にさせた。 「何から何まで、すまぬな……わらわは、もう人の血は飲めぬ」 「……失礼します」 何か言いたそうな顔をしたが、何も言わずに歌仙は窓から飛び立った。 一匹のコウモリが離れて行くのを見ながら、セイラは眠りについた。 それから三十分ほどたったころ、気配を感じて目を覚ます。 「誰じゃ?」 だるい体を起こして、この部屋の唯一の入り口である窓を見た。しかし、そこには誰もいない。 「何じゃ……拓麻坊や」 外からの侵入者で無いならば、ここへ来るのは限られた者のみ。 秘密の部屋の鍵を持つ者だけ。 「大丈夫? 倒れたって歌仙君に聞いてね。自分が戻るまで無茶しないように見ていてって頼まれたんだ」 「歌仙は心配性じゃのう」 ぼやくセイラに拓麻は苦笑しつつ、抱えた花束を花瓶へと移し変えた。 「お見舞い……っていうと大袈裟かもしれないけど、セイラちゃん白い薔薇好きでしょ。手に入ったからあげるね」 「気を使わせて悪いのう……」 「気にしないで、僕が好きでやってる事だからね」 拓麻はベッドの横に椅子を持ってきて座る。 「……のう、拓麻坊や」 「ん、何かな?」 セイラは顔だけ拓麻へと向けて話しかけた。 「お主は……吸血鬼として産まれた事をどう思う?」 「う〜ん、難しい質問だね。そうだな、僕は良かったと思うよ」 拓麻はセイラへ笑顔を向けた。 「枢と友達になれたし、ナイト・クラスもなかなか楽しいしね」 (……それに、なによりも君に会えたから) 誰にも言わない秘めた思い。 幼いころ、祖父に連れられた部屋で出会った、綺麗な人。 顔を会わせて話したのは、わずかな時でしかない。あれから何度か、この秘密の部屋に来たけれど、彼女は眠ったままだった。 けれど、今……眠り姫は目覚め、こうして目の前にいる。 初恋は実らないと言うのは本当らしい、と拓麻は思う。 手に入らない事は初めから分かっていた。 ただ、側にいるだけで良い。だから、誰の者にもならないで……。 拓麻は、自分の思いを誰にも悟られないように、何重にも蓋をした。 「そうか……それは良いことじゃのう。わらわも、ここへ来てからは楽しいぞえ」 「そう、確かに優姫ちゃんをからかっているときのセイラちゃんは楽しそうだよね」 「あぁ、優姫お嬢の反応は新鮮でのう。ついついやってしまうのじゃ。吸血鬼には居ない可愛らしい子じゃ」 楽しそうに話すセイラは、綺麗と言うよりも可愛らしくて……少しだけ近付けた気がした。 |