魔王からのプレゼント(真田誕/幸真)
2時限目が終了し、20分休みが始まる。
静かだった教室が賑やかになり、みんなそれぞれが自分の好きな事をしてこの時間を過ごす。
「真田くん」
先程の授業でもらったプリントを整理していると後ろから誰かに話し掛けられ、振り返ればそれは同じクラスの柳生比呂士だった。
「どうした、柳生。」
「幸村くんが呼んでいます。行ってあげて下さい。」
教室の出入口を見て言った柳生につられてそちらを見れば、確かに幸村がいた。
ニコニコと笑いながらこちらを見ている。
「ああ、ありがとう、柳生。」
「いえ、お気になさらず。」
柳生に礼を言うのを忘れずに席を立ち、幸村の元へと急ぐ。
途中、教室で騒ぐクラスメートに何度かぶつかりそうになりながらもなんとか幸村の元へとたどり着いた。
「どうした、幸村。」
「うん、ちょっと。…ここで話すのもアレだし、静かなところに行こうか?」
「うむ。」
幸村の提案に肯定の返事を返し、歩き出したその背中を追う。
自分より小さいハズの幸村だが、その背中はとても大きく感じられて、ああ…やはり立海のテニス部を代表して支えられるのはコイツしかいないな、とそう思った。
「真田、」
「うわっ!な、なんだ?」
いきなり立ち止まった幸村にぶつかりそうになり、間抜けな声を出してしまい慌てて体制を立て直す。
考え事をしていたとはいえ、ぶつかりそうになった上に情けない声を出してしまったなどたるんでいる証拠だ。
「このままこのあとの授業、サボっちゃおうよ。」
「は?」
自分の言動を悔やんで反省しているところへいきなりそう言われ思わず聞き返す。
「学校、抜け出さない?」
「な、何をいっているのだ、幸村。そんなたるんだ事―――」
「真田。」
「ゆき、むら…?何…」
急に身体を押され、壁に押し付けられ、身動きが取れなくなってしまう。
「真田は無理をしすぎだ。たまには息抜きしなくちゃ。」
学校を抜け出すなどとそんなたるんだ事はできない!と断固拒否するがしつこく食い下がる幸村。
幸村はたまに今回のようなとんでもない事を言ってくる。
「それとこれとは話しが別だ!無理に決ま――んっ!?」
無理に決まっているだろう。
真田が言いかけたその言葉は幸村の唇に飲み込まれた。
「ん、んぐ…ふっ、んん、んむ……」
あっと言う間に侵入してきた幸村の舌が真田の口腔を犯す。
「ゆ、き…んん、む…ら、」
必死に幸村を押し返そうとするが壁に押さえ付けられているというこの不利な体制では上手くいかない。
それに幸村だって見た目こそ可愛らしいが男だ。
真田よりもテニスが強いと言うのも事実だし、今まで入院してた分を取り返そうとトレーニングにも念をいれている。
「んん、ん…ふぁ、んむっ、ん」
なにより、このキスによって身体に力が入らなくなってしまっているのが原因だ。
なにかよくわからないが、身体が熱くなり背筋がゾクゾクして力が入らない。
「ふはっ、はぁっ…ゆきむら……なに…」
ようやく離れた幸村は息を荒くする真田を黒い笑みを浮かべながら見る。
「真田、学校…抜け出そう?」
「だから、それはならんと…ぁっ!」
「いいだろ?少しくらいお願いだよ、真田。」
「ん、んっ」
いつの間に外されていたのか全開になったシャツの間から手を突っ込まれ、身体をまさぐられる。
ゾクゾクする感覚がさらに増し、身体の中心に熱が集まる。
「わか、った…!行く、から…やめてくれっ」
真田がなんとかそう言い切ると、幸村はピタリと手を止めた。
「うん、そうこなくちゃ!」
ぱぁぁぁ、という効果音をつけたくなるほどの笑顔になり、真田のシャツのボタンをかけ直し整えた。
それから壁に寄り掛かり、すこしずり落ちた真田に手を貸し、引っ張り起こす。
「行こう!」
今更、「やっぱり行けない」なんて言い出せる訳もなく、大人しく幸村についていく。
こっそり学校を抜け出すなんて当然初めての体験。
だが幸村はどこか慣れている感じで難無く学校を抜け出せた。
「ど、どこに行くんだ?幸村…。」
「うん、まぁ…とにかく着いて来てくれれば分かるよ。」
幸村に言われるままに後をついて歩く。
制服のままこんな時間に外をあるくなんて、怪しまれるのでは無いかという不安と、なんだか体験したことが無い楽しさとが入り交じる。
しばらく幸村の後をついて行くと一軒の店の前についた。
「幸村、ここか?」
「うん。」
「だがここは…」
「大丈夫だよ、真田。俺がついてるから。」
何が大丈夫なのか、ぐいっと腕を引っ張られ幸村にぶつかりそうになりながらその店に入る。
ガヤガヤでもなければワイワイでもなく、なんと形容すればいいのか分からない程の騒音。
たくさんの機械から流れ出す音楽や音声、と昼だというのに賑わう店内。
そこはゲームセンターだった。
「幸村…音が、」
「しょうがないよ、ゲームセンターだから。」
騒音に臆する事なく、真田の腕をひっぱりぐんぐんとゲームセンターの奥へと進んで行く。
そして一台の機械の前で立ち止まった。
「まさかとは思うが、幸村…これ…」
「プリクラ。男二人で撮れるとこ探すの大変だったんだから。さ、いこ!」
「ちょ、幸村!!」
抵抗する真田も気にせず、迷わずその機械――プリクラの撮影スペースに入って行く。
当然、初めて入る。
どうしていいか分からず、わたわたとする真田に構う事なく、幸村はお金を入れ、手際良く機械を操作する。
「さぁ、真田。カメラ、見て!」
「こ、こういうのは…」
「いいからっ!はい!」
ガシッと肩を掴まれ渋々カメラの方を見る。
調度その瞬間、ぱしゃっというシャッター音と共に眩しいくらいの白い光りで視界が遮られた。
音声ガイドが次の写真を撮るためのポーズを促す。
撮影までのカウントダウンが始まるが、何をしたらいいのか分からない真田はただ立っている事しか出来ない。
すると、幸村がぎゅっと抱き着いてきた。
「なっ、」
ぱしゃっ
一枚撮り終われば次、次…と、忙しくてついていけない。
ほとんどポーズをとれない真田は戸惑うばかりだった。
「真田、」
「なんだ」
機械が撮影までのカウントダウンを始める。
「んっ!?」
急にネクタイを引き寄せられたかと思えば、次は唇を塞がれた。
さらには舌まで入ってくる。
また、あのゾクゾクとする訳の分からない感覚に襲われる。
そのままの状態でシャッターが切られ、プリクラ機械での撮影がようやく終了した。
らくがき機能つきのプリクラらしい機械が撮影が終了したのでらくがきスペースへ移動するよう音声案内をする。
「んっ、んんっ、ん…はっ、ゆゆゆゆ幸村っ!」
「さて、行こうか、真田。」
しばらくして離れた幸村は真田の腕を引っ張り、プリクラ機を出る。
それかららくがきスペースに回った。
一緒にらくがきする?と問われたが断り、幸村のらくがきが終わるのを壁によりかかり、待つ。
ぼーっとしながら考える。
どうして幸村は今日、自分を連れ出したのか。
こんなところに。
そして、あれは…なんなのだろう。
世間一般で言う、キス。
だがそれは、恋人同士がするもので男同士がするものではない。
と、いうことは…幸村は……そういうつもりなのだろうか…。
「おまたせ、真田。」
「っ!あ、ああ…」
急に話し掛けられ、ビクリと身体を震わせた真田をクスクスと笑いながら幸村が今撮って来たそれを差し出す。
「…!!?おい、これはっ!?」
真田の手の中には最後に撮ったそれがあった。
そしてそこには、
『HAPPY BIRTHDAY 弦一郎』
と、幸村の字で書かれている。
まわりのキラキラやハートは…見なかった事にしよう。
「ちゅープリってやつだよ。」
「ちゅ、ちゅーぷり?なんだ、その仁王みたいなのは…」
「まっ、気にしないで。それ、携帯の電池パックの裏に貼っておいてね。」
ポンポン、と自分の携帯電話の電池パック部分を叩いてみせた幸村。
「それから…、」
すっ、とのびてきた幸村の右手が真田の髪を掻き交ぜる。
「誕生日おめでとう、真田。」
とびきりの笑顔でそう言った幸村は真田の手を取り歩き出す。
副部長の生まれた日だもん、部員みんなに祝ってもらわないとね。
これから部室で誕生日パーティーだよ。
珍しく真田も笑顔になり、幸村の後を追い、歩き出した。
(しかし幸村…接吻というのは好いている者同士でするものでは…)
(ん?ああ、恋人同士ってことね。)
(そうだ。俺達は、違う…だろう?)
(いいじゃん?別に。そのうち君は俺の物になるんだし。)
(…………!?)
―――――――――――――
真田はぴば!
ちょっとどころか大遅刻…。
'10.6.15
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