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振り回す(28)
昼休み、借りていた本を返そうと席を立ち教室を出て図書室へ向かう。
そのための廊下は生徒で賑わい、騒がしい。


昨日のドラマ見た?
昨日見逃したんだよねー
お前アイツの事好きなんだろー?
ちっ、ちげぇよ!
次体育とかマジだるいー
だよねー


会話の内容は様々だが柳生にとってはどれもくだらない、どうでもいいような話しばかりだ。
早くこの廊下を抜けて静かな図書室に行きたい。
そう思い、歩く速度を速めた瞬間、突然目の前に現れた人にぶつかってしまった。
完全に回りの雑音に気をとられていた柳生の不注意だ。

「す、すみません…」

「いーや、全然かまわんよ。やぁーぎゅ」

謝ってから相手の顔をみると、それは柳生のよく知った人物だった。

「に、仁王くん…?!!」


仁王雅治。
彼はダブルスの相方で柳生の親友。
ペテン師の異名を持っている。


「どこ行くんじゃ?」

「ちょっと、本を返しに図書室まで…。」

「ほーう…」

騒がしい廊下では聞き逃してしまいそうな程小声での会話。
仁王と柳生の距離が近いせいもあるが、二人の間ではしっかりと会話が成立している。

「なので、どいていただけませんか?」

用件と行き先を述べたにも関わらず、どこうとしない仁王に柳生は眼鏡を持ち上げながら言った。

「どうしようかのう…」

「仁王くんっ」

急いでいるんです!と言いながらぐいっと仁王の胸を押す。

「柳生、」

すっ、と仁王の顔が柳生の視界一杯に広がった。

「なっ、なんですか!近いです!」

「わざとじゃ、わざと。」

半歩後退し、触れそうになる唇から逃げる。
が、そんな抵抗も虚しく、一歩前に出た仁王から唇を奪われてしまう。

「んっ!」

ぐっと腕を突っ張り仁王を押し返す。
それから、自らの口元を本で隠した。

「な、なにするんですかっ!」

「なにって、言わんとわからんか?」

「分かりますけどっ!何故、今、こんなところで!と、言いたいんですっ」

柳生は回りに悟られないように、小声で叫ぶ。

「…したかったから?」

「―――ッ!もう知りません!」

くるりと踵を返し元来た廊下を引き返す。
本は放課後にでも返せばそれでいいだろう。


仁王雅治。
彼はダブルスの相方で柳生の恋人。
とんでもないペテン師だ。





(やぎゅー!……行ってもうた。)
(比呂士も大変だな。俺の位置から何やってるかまる見えだったぜぃ?)
(……プリッ)




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100越えのお題挑戦に挫折しました

'10.12.6

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