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握り締める(2→8)
窓際の1番前の席。
自然に目が行ってしまう。
今時流行らない七三分けに眼鏡の彼は今日も大まじめに教師の話しに耳を傾け授業を受けている。
黒板に書かれた文字をノートに写し、教科書を目で追う。
たまにズレた眼鏡の位置を中指でくいっと押し上げて調節する。
一方、自分はといえばノートは落書きだらけ、教科書は開いていないし教師の話しなんて聞く気もない。
髪は白いし長い。校則違反だ。
じっと窓際の1番前を観察することしかしていない。
柳生比呂士。窓際の1番前に座る彼と仁王とは全く正反対で興味をそそられた。
彼、柳生にとんでもないことを言って、もしくはやってうろたえる姿を見てみたいと思う。
そんな考えを慌てて頭から消し去り、今度は窓の外に目をやる。
黒い雲が太陽を隠し始めている。
下校時間には雨が降ってるかもしれないな、と傘を持ってきていない自分に気がついた。
まぁ、いいかと再び授業…ではなく柳生観察を再開。
相変わらずカリカリと真面目にノートをとっている。
と、チャイムが鳴り生徒が一斉に教科書を閉じて立ち上がりそれぞれ好きな事をしだして一気に教室が騒がしくなった。
仁王も、立ち上がり教室の1番前、窓側の席へと歩き出す。

「よっ」

軽くその席に座っている柳生に挨拶をして肩を叩いてみる。
いままで関わった事のなかった仁王に話しかけられたのがそんなに不思議だったのか、柳生は驚いたような、理解できないといった表情をしていた。

「お前さん、真面目なんじゃな」

「いえ、多分、普通だと思いますが。」

「そんなことないじゃろ。」

私にとっては普通です、と返事をした柳生は教科書とノートを閉じて席を立つ。

「すみません、少し用事があるので失礼します。」

ペコリと頭を下げ、早足で教室を出ていってしまった。

「なんじゃ、つまらんのう」

その背中を見ながら一人呟いた仁王はふと窓の外をみる。
空は黒く厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだった。

放課後、案の定空は暗く、雲から落ちる雨粒が地面や傘、傘を忘れた人の上を跳ねる。

「やっぱ降って来たのう…傘、持っちょらん」

教室の窓から空を見上げ、独り言のつもりでポツリとつぶやいた。
すると、横からスっと何かを差し出され、驚いた仁王ははっとそちらを見る。

「傘、余計に持っているのでよろしければお使いください。」

そこにはニコリと優しく笑う柳生がいた。
視線を手元に落とせば、そこには折りたたみ傘。

「あ、ありがとう…」

反射的にそれを受け取った仁王は、また反射的にお礼を言った。

「いえ。雨に濡れて風邪など引かれないで欲しいので。」

「…おう。気をつけるきに。」

柳生の言葉にこくりと小さく頷いて折りたたみ傘をきゅうっと握りしめる。

「ではまた明日、仁王くん。」

柳生が軽く手をあげてそう挨拶した。


きゅん、

心臓が握りしめられるような、でも心地いい、そんな感じの、なにか。
名前、覚えていてくれたのか、という小さな喜び。


もう一度傘を握りしめる。
もう一度心臓が握りしめられたような感覚。
君に、僕の心臓は握りしめられた。




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100越えのお題挑戦に挫折しました
中1とかそんくらい。

'10.11.29

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