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伝える(28)


「やぁ、仁王。キミ、柳生の事が好きなんだって?」


「は…?」

朝からいきなり部長の幸村に呼び出され何事かと会いに行けば唐突にそんな事を言われた。

「な、なんじゃ?急に…」

「仁王に頼み事があるんだ。」
「頼み…?」

話しが噛み合わない、というか幸村はあくまでも自分の用件を伝えるためだけで仁王の話しを聞こうとしない。
内心文句をいいつつも嫌な顔一つせず幸村に問い返す。
幸村は怒らせたらまずい。


「今日の昼休みに校庭の真ん中で柳生にキスして来てよ」


「え、はぁ!?」

幸村から告げられた“命令”に仁王は驚き思わず幸村に掴み掛かる。
昼休みの校庭、しかもど真ん中で柳生にキス?
男女同士でも変な目で見られるだろうに男同士でそんなことしてたらただの変態扱いじゃないか。
自分は別に構わないが、柳生まで巻き込むのはよくない。

「な、なんでそんな事…!?」

「え?憂さ晴らしに決まってるじゃん?やってくれるよね、仁王?」

思わず掴み掛かった手をやんわりと外されにっこりと満面の笑みでそう言われれば頷くしかないだろう。

「よ、喜んで……。」

それだけ言って幸村と別れる。
キスする、しない、どちらにせよ悪い事が起こるのは確かだ。
柳生に嫌われるか、幸村に殺されるか。
命は大事だが柳生だってそれに値するくらい大事だ。
嫌われたく無い。




校庭の真ん中に立ち、柳生と向かい合う。
キョロキョロと回りを見渡し人の人数を確認。
幸い、人はあまりいない

「どうしたんですか?仁王くん。校庭の真ん中に呼び出されるとは思ってもみませんでしたよ。」

「俺もまさか校庭の真ん中に呼び出すとは思ってもみなかったぜよ…。」

「…で?何か私に用事ですか?」

「用事、というかの……これからすることは全部幸村の命令じゃ、ええか?」

「は?なに、んっ!!?」

幸村に命令されたと言うことを強調し、近付いてそっとキスをする。
人が少ないとはいえ、さすがに校庭の真ん中。
目立つに決まっている。
周囲からの視線とざわめきが仁王と柳生取り囲んだ。
触れた時と同じ静かさで柳生から離れ、少し高い柳生を目線だけで見上げる。
表情が無だった柳生の顔が事を理解したらしくだんだんと赤くなっていく。
最終的には耳まで真っ赤になりなり、ずざっと後退。叫ぶ。

「な…っ、なにするんですかっ!!」

それに続け、周囲にも聞こえるよう仁王も叫ぶ。

「幸村に校庭の真ん中で柳生にキスせんと殺すみたいな事言われたんじゃ!俺はまだ死にとうない!!」

「幸村くんの気まぐれに私まで巻き込まれた、と言うことですか…」

かちゃりと眼鏡を直した柳生はくるりと仁王に背中を向ける。

「それなら、仕方ないですね…。」

それだけ呟いて歩き出した。
なんとなく、その背中が悲しそうで呼び止められず、仁王も柳生に背中を向けて歩き出す。

「仁王。」

名前を呼ばれそちらをみればいつからいたのか幸村がこっちを見つめ、笑っていた。

「……なんじゃ、幸村。文句無いじゃろ?」

「うーん…そうだね。でもつまんなかったかな。柳生に殴られる仁王が見たかったのに。柳生、殴るどころか…泣いてたね。」

「な…っ!?」

泣いて、た…?
慌てて柳生の歩き去った方向を見るがそこにもう柳生の姿は無い。

「柳生…っ」

今ならまだ間に合うかもしれない。
柳生を追いかけよう。
そう思い、走り出す。
どこに行ったのだろうかと辺りを見回しながら校庭を突っ切り、校舎の影に入る。

「柳生!」

するとそこには膝を抱えて座り込む柳生がいた。
仁王に名前を呼ばれ、弾かれるように顔をあげた柳生はたしかに泣いていた。

「におう、くん…」

「すまん、柳生。幸村に言われたからといってお前さんを巻き込んで…」

「違います。別に…その事についてでこうなってる訳ではない、のでっ…。」

眼鏡を外し、ごしごしと溢れ出す涙を拭いながら言った柳生。

「相手が、仁王くんでなければ…こんな悲しくはならなかったんでしょうかね……。」

「…え?」

「相手が仁王くんじゃなければ…、幸村くんの気まぐれに巻き込まれたと思えばなんともなかったのに…っ!」

またガバリと膝を抱え直した柳生の肩は僅かに震えている。

「柳生…そんな俺のこと、嫌いなんか?」

「嫌いです!だいっきらいですっ!!仁王くんなんて…大嫌い、です…っ」


ああ、なんだ。
嫌われたくないと思っていたけど、手遅れだったんだ。

そりゃあ今まで柳生に嫌われるような事しかして来なかったからな。
どうせ嫌われてるなら、最後にこれくらいもらってもいいんじゃないか…。


眼鏡を持ったまま膝を抱える柳生の手を掴み、引き寄せバランスを崩し顔を上げた柳生のアゴを掴み、無理矢理コチラを向かせた。
そしてそのまま強引にくちづける。

「んんっ!?ん…ん、ぅ」

訳の分かっていない柳生の唇を割り、舌を入れて口腔を蹂躙。
歯列をなぞり、舌を柳生のそれに絡ませてキツく吸い上げる。
最初は身体を強張らせ、逃げていた柳生だがだんだんと力が抜け最後は無抵抗、されるがままになっていた。

「ん、ぅ…ふ、んぁ…ぁふ、」

息が苦しくなり空気を求め口を開けるたびに深くなるキスは柳生の意識をだんだんと薄れさせる。

「ぅ、む…んん、ふぁ、ふはっ…」

やっとキスが解かれ離れる二人を銀色の糸が繋いだ。
キスひとつでぐしゃぐしゃになった柳生は浅い呼吸を繰り返し仁王を潤んだ目で見上げる。

「なに、するんですか…っ」

「キス。」

「―――っ!行為自体を聞いたのではなくその意図を…!まさかまた幸村くんに…」

「今のは俺の意志じゃ。いいか、よく聞きんしゃい。例えおまんが俺の事が嫌いで、大嫌いでも俺は柳生の事が――好きで、大好きじゃ!!」

最後は思いっきり叫ぶ。
嫌われてようが好きなものは好きなのだ、仕方がない。

「にお、く…んっ!」

いきなりぎゅっと首に抱き着かれた。

「ありがとうございますっ、すみません。大嫌いなんて言って…すみませんっ!私も、大好きです。」

「や、ぎゅ…!?えっ?なん…」

「仁王くんが、大好きです。」

仁王の肩口に顔を埋めながら震える声でそう言った柳生。
少し信じられないが、伝わる柳生の体温が仁王を安心させた。

「柳生…!俺も大好きじゃっ」

仁王も柳生の背中に腕を回しぎゅっ、と力を込める。
それからお互い様何も言わずにしばらく抱き合った。




(ふぅ…ホント世話が焼けるよ。いつから両想いだったと思ってるんだ。)
(幸村…?の、のぞき見とはたるんど…んぐもご)
(ちょっと黙っててよ、真田。)
(んーっ!んーっ!!)―――――――――――

100超えのお題挑戦に挫折しました

'10.12.5

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