焦がれる(28)
ぽかぽかと太陽が照り付ける。
授業なんてやっていられないと体育を抜け出した仁王は体操着のまま静かな屋上にいた。
だるいとか、そんなものじゃない。
この時間の体育は仁王にとって本当はすごく楽しみにしている授業だったのだ。
隣のクラス―――つまりは柳生のいるクラスとの合同授業。
授業中なのに柳生を見ていられるなんてめったに無いチャンス。
それなのに授業を抜け出したのだ、それなりの理由はある。
ふぅ、と一つため息をついてああ、幸せが逃げた。なんて思いながら雲が穏やかに流れる空を見上げた。
その空の青さに、また気持ちが沈む。
くだらない。
どうしてこんなことでいちいち落ち込まなくちゃならないんだ。
自分はそんなに…自分で思っていた以上に柳生の事が好きだったらしい。
こんなに何か一つの物に執着するとは思ってもいなかった。
好きで好きで好きで堪らない。
どうしたらいいのか分からない。
ただ、柳生が転んで、それを助けたのが自分じゃなかったというだけなのに…。
がくっと頭を垂れ、今度は屋上の地面と睨めっこする。
「はぁ…。」
ため息ばかりが溢れて行く。
ため息をつくと幸せが逃げるなんて言うけれど実際は幸せじゃないからため息をつくんだ。
その場に腰を下ろし、ばたっと頭をぶつけないように後ろへ倒れ込む。また青い空。
寝れば少しは気分が良くなるかもしれないと目を閉じた。
――忘れよう、忘れなければ。
こんな気持ちは忘れた方がいい。
アイツは親友でダブルスパートナーでからかいがいがある奴。
それだけ、それだけ……――。
だんだんと意識が薄れ考える頭の回転が悪くなる。
そしてついに仁王は眠りに落ちた。
どのくらいたったのだろうか、仁王は目を覚まし起き上がる。
授業は終わったのか、終わってないのか…やはり屋上は静かだ。
どこかに時計はないかと思い、辺りを見回すと、自分の右隣に眠りにつく前、散々仁王を悩ませていたダブルスパートナーがすーすーと寝息を立て気持ち良さそうに眠っている。
「柳生…!?」
「ん、ん…?」
仁王の声に反応し、ゆっくり目を開ける。
「仁王くん…?」
まだ意識がはっきりしない様子の柳生は身体を起こし仁王の名前を呼んだ。
「や、柳生…なんでここに……」
「体育の授業中、仁王くんの姿が見当たらなかったのでここにいるんじゃないかと20分休みに捜しに来たんです。そしたら貴方が気持ち良さそうに眠っていたので私もつい………あれ?今、何時ですか?」
思い出したように制服のポケットを漁り、懐中時計を取り出した柳生は時間を確認。
それから叫ぶ。
「じゅ、授業始まってるじゃ無いですかっ!?」
慌てたように立ち上がった柳生は懐中時計を元通りポケットに戻し、まだ座り込んでいる仁王の手を取る。
「行きますよ、仁王くん。」
ぐいっと手を引かれ、立ち上がる。
「きっと皆さん心配しています、授業に戻りましょう。」
「……心配、しています?」
「はい。」
「お前さんも、俺の事心配したんか?」
「え?当たり前じゃないですか。私は仁王くんのしんゆ、!?」
その先を聞きたくなくてまだ繋がったままの手を自分の方に引き寄せ柳生の口を自らの唇で塞ぐ。
「ん、んんっ!?はっ…」
仁王は触れるだけで満足せず、柳生の口腔を舌で蹂躙してから何事も無かったかのように離れて行った。
「悪いが、俺はお前さんの事、親友とは思えん。」
「にお、く…」
「柳生も早く授業に戻るんじゃよ。」
驚き、目を見開く柳生に背を向け軽く手を上げて挨拶をした仁王は屋上を後にする。
バタン、と屋上へ続くドアを閉め、また溜息をついた。
こんな気持ち、忘れられる訳がないじゃろ…。
愛しくて愛しくて仕方ないんじゃ。
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100超えのお題挑戦に挫折しました
'10.12.1
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