※紳士、詐欺師に恋してます(28)
昼休みの屋上。
だんだんと寒くなってきたこの時期に屋上で昼食をとるもの好きはなかなかいないらしくフェンスに列んで寄り掛かる柳生と仁王以外に人は見当たらない。
「好いとうよ、比呂士。」
仁王に唐突に告げられた言葉に柳生は思わず飲んでいたお茶を吹き出しかけた。
「な、何をいきなり…っ」
何とか飲み込んだお茶にむせながらズレた眼鏡を定位置に戻し体制を立て直してから動揺を隠すためもう一度お茶を口に含む。
「ホント柳生は可愛いのう。」
今度はお茶を盛大に吹き出してしまった。
中途半端に飲み込んだお茶が気管に入り、しゃがみこんで激しく咳込んだ柳生の背中を仁王は大丈夫か?と優しくさすった。
「仁王君…私をからかっているのですか?ふざけるのはやめたまえ!」
苦しさから目に浮かんだ涙を指で拭いながら上目使いに仁王を睨み付ける。
「プリッ、いつでも俺は真面目ぜよ。」
「そういう言動が真面目に見えないんです。少しは私を見習って…っ!?」
一瞬、触れるだけで離れて行った仁王の唇に言葉を続けられなくなる。
そして状況把握。
仁王君にキスされた…?
そう自覚した途端、顔が羞恥に朱く染まる。
「にお、く…なななっ、なにを…!?」
「長くなりそうだったからの…口封じじゃけん。」
「そ、なっ…」
「それともあれか?今のじゃお前さんは足りんかったかのぅ?」
一旦離れた仁王の顔がまた近付き耳元で妖しく囁いた。
それだけの刺激で身体がゾクゾクと疼く。
「柳生…」
名前を呼び、じりじりと迫ってくる仁王から逃げるように後退するがすぐに背中がフェンスにぶつかりカシャン、と音を立てた。
仁王がニヤリと口角を吊り上げ笑う。
「もう逃げられんぜよ、柳生。」
キッチリとしめられた柳生のネクタイがシュルリと音をたてて解かれる。
「に、仁王くん!やめたまえ…っ!!」
慌てて仁王の手を掴んで止めようと試みるがネクタイで縛るぞと脅され怯んだ隙にワイシャツのボタンまでも外されてしまった。
ちょうどその時、遠くでチャイムのなる音が聞こえた。
「ほ、ほら…仁王君!授業が始まってしまいます!」
「柳生…このままじゃ授業に集中出来んのじゃが?」
そういいながらぐいっと押し付けられた仁王のそれはすでに存在を主張し始めている。
「―――っ!?」
思わず息を呑み身体から力が抜けてしまう。
「………た。」
「柳生…?」
「わ、分かりましたっ!!そ、そのかわり手短にお願いします…」
やけくそになり叫んで身体の力を完全に抜く。
抵抗を止めた柳生を仁王は驚いたように見つめた。
「ホントに、いいのか?」
「言い出したのは仁王君でしょう…」
「プリッ、それなら遠慮なくいかせてもらうぜよ。」
まだいくつかとまっていたワイシャツのボタンを全て外され前が全開になる。
寒いと感じたのは一瞬で、すぐに触れた仁王の手が僅かな熱を生み出させていく。
「っ…!」
際どい部分をかするだけの愛撫に身体がビクリと跳ねてしまう。
そのたびに背中のフェンスもカシャンッカシャンッ、と音をたてる。
「に、お…くっ、……!」
「柳生?」
じれったい。
こんな僅かな快感は逆に辛い。
「も、焦らすのはやめて下さ…あっ!」
仁王の袖を引っ張り、うったえれば待ち望んでいた快感が甘い痺れとなって全身を駆ける。
仁王が胸の突起をいじるたびにフェンスが音をたて揺れる。
「ふぁっ、ああ、あっ…におくっ!」
「コレだけでこんなになってたら最後まで身体がもたないぜよ、柳生。」
「ぅあっ…ちょ、仁王くんっ」
右手で柳生のそれを弄びながら左手はベルトを外しにかかる。
片手で器用に柳生のベルトをはずし終えた仁王は下着の中に手を突っ込んで来た。
それから反応して硬くなりはじめた柳生のそれを上下に扱きはじめる。
「はっ、あ…っあ、ふっ、」
カシャンカシャンと音をたてるフェンスに完全に身体を預け快感に身を委ねた柳生。
ずれた眼鏡を直す余裕すらすでに無いようだ。
「に、おう…くんっ、も…げんか、いっ…て、はなしてくださっ、んっ、」
消えかけた理性をかき集めて仁王の手を止めにかかるが快感に支配され力の抜けた腕ではどうにもならない。
先走りの蜜が仁王の手の動きを助けさらに快感が増す。
「ん、んん、ふっ、んぅ…あ、ぅ…」
声が漏れるのをわずかな理性で必死に抑え、仁王にしがみつく。
イキたい、でもイキたくない。
「や、ぎゅう…?」
いきなりしがみついて来た柳生に驚いたのか、仁王は愛撫をやめてしまう。
「あぅ、におうくんっ…も、早く……!」
辛そうに見上げた柳生の瞳は潤み、今にも泣き出しそうだ。
「イキたい、か?」
仁王の問いに小さく頷く柳生。
「っふ…は、やく…。」
「───っ!!」
もう我慢できないと言うように擦り寄ってくる柳生に仁王は息を呑む。
普段はあんなに澄まして冷静な柳生の乱れる姿は破壊力抜群だ。
ズレた眼鏡の間から覗く濡れた瞳に見上げられたらひとたまりもない。
柳生の唇を仁王のそれが塞ぐ。
「ん、ん、んぅ…んっ」
仁王が愛撫を再開しくぐもった声が漏れる。
「んっ、ふ…んんん───っ!!」
ビクビクと震え仁王の手に熱を放った柳生。
絶頂後独特のけだるさに身体の力が抜け仁王に抱き抱えられる形になった。
そのまま上がった息を整えていた柳生のズボンを脱がせ、そっと後ろに回された仁王の指がつぷりと埋まる。
「ふっ……!」
体液で濡れた指はすんなりと柳生の中に入って来た。
痛みはそんなに酷い物ではない。
ただ強い異物感を覚え思わずひいた腰は仁王に引き戻されてしまう。
「逃げてたら日が暮れてしまうじゃろ。手短にお願いしますって言ったんはお前さんじゃ、柳生。」
「そな、こと言われましても…っ、ぅあ」
身体の中で指を動かされ言葉が途切れる。
気持ち悪い。
「くっ、うぅ……」
唇を噛み、嫌悪感を少しでも逃がそうとぎゅっと目を閉じるがたいした効果もない。
指が二本に増やされ異物感と圧迫感がさらに増した。
しばらくそうしていると仁王の指が探るような動きをはじめる。
「ぁ、んっ!?」
そしてある一点を仁王の指が掠めた瞬間に高い声が上がり柳生がビクつく。
それを仁王が見逃す訳も無く、そこばかりをしつこく攻めてくる。
「にお、く…!や、ぁっ、あ!そこ…やめて、あぁっ、くださ…!!」
強すぎる快感に何度も気を失いそうになった。
いつしか嫌悪感と異物感は消え快感だけが残り、それはどんどん強さを増す。
恐い、この快感が。
後ろから指が抜かれ快感から解放された安心感と喪失感が入り交じり涙となって瞳から一筋、零れ落ちた。
「すまんのぅ、柳生。俺ももう我慢出来そうに無いぜよ。手加減出来んかも。」
耳元でそう囁いた仁王は柳生の身体をフェンスに預け足を持ち上げる。
柳生はすでに羞恥を感じている余裕も無いようだ。
「あ……」
後ろに熱い物が押し当てられ思わず声を零れた。
次の瞬間、仁王が一気に柳生を突く。
「あ、ああ……!はっ、」
「息、止めるな。」
「はぁっ、ふ、ぁ…」
指とは比べ物にならない程の圧迫感と引き攣るような痛みに息を止めかけ、仁王に注意をされた柳生は慌て呼吸を整えようと努力する。
しばらくして呼吸が落ち着いて来た柳生の様子を見た仁王は律動を始めた。
律動に合わせて柳生の背中のフェンスも鳴る。
「あ、あっ!あぁ…っ」
いつしか律動が抽挿に変わりフェンスの音も激しくなった。
ガシャンガシャンと一定のリズムでうるさく鳴るフェンスの音も気にしてはいられない。
「あっ、ぅあ…ん、ふぁ…ああ、にお、く…ぁあっ、」
「やぎゅ、きもちい…?」
ガクガクと首を縦に振る柳生を見て、仁王は満足げに口角を吊り上げた。
「あ、んん、はっ…ふぅっ、くっ、あ…」
「声、もっと聞かせて?」
耳元でボソリと告げられた言葉にゾクゾクと背筋に電流が走る。
それとほぼ同時に激しい突き上げ。
「あああっ、ぅ、や、あああああっ!」
「柳生…―――!」
頭が真っ白になり何も考えられない。
薄れる意識を必死に繋ぎ止め仁王にしがみつく。
絶頂後独特のだるさが全身を包み、動く事を拒否する身体をなんとか起こそうと努力するがなかなか上手くいかずに力が抜けてしまう。
「におうくん…っ、力が…」
手を貸してもらおうと上目使いに仁王を見る。
「……っ」
「…に、仁王君ッ!!」
その時、まだ柳生の中に入ったままの仁王が反応するのを感じ、慌てて仁王に預けていた上半身を起こす。
もう限界だ。
これ以上求められたらどうにも出来ない。
「は、早く抜いて下さい…!」
「わかったから!そう慌てなさんなって。」
「にっ、仁王くんが……」
「柳生が可愛いからしかたないじゃろ。」
「ふ、あぁっ…」
ズルリと後ろから引き抜かれ、その刺激にまた声が漏れてしまう。
やっと解放された安心感と少しの喪失感にへなへなと崩れ落ちた柳生をすかさず仁王が受け止める。
「で、授業…どうするんじゃ?」
「授業…、」
忘れていた、といった様子で呟いた柳生は足首の辺りに引っ掛かっていたズボンと下着を上げ力の入らない足を叱咤し無理矢理立ち上がった。
「6時間目には間に合います。行きましょう。」
くいっと眼鏡を持ち上げいつもの紳士に戻る。
「さっすがじゃのう、柳生。ホントは、気持ち悪いんじゃろ?」
仁王はそう言いながらぽんぽんと柳生の尻を叩く。
「だっ…、誰のせいですかっ!!」
「後先考えずに中出しした俺のせいじゃ。」
「―――っ!そういう恥ずかしい事を…!」
くすりと笑いながら言った仁王に真っ赤になりながらも返した柳生はスタスタと校舎へ続く入口まで戻って行く。
「ちょ、柳生!」
慌ててそれを追いかける仁王は手を伸ばし、ぎゅっと柳生を自分の腕の中へおさめた。
「つーかまえた」
「仁王君っ!?やめたまえ!」
「もう少しくらい、ゆっくりしてこ」
「でも授業が…」
「お前さんなら授業なんて受けなくても大丈夫じゃろ?」
「ひゃっ!?だ、大丈夫とかそういう問題では無くて…っ」
かぷりと耳を甘噛みされ高い声を上げながらもなんとか言って仁王から離れた柳生は校舎へ続く入口では無く、フェンスの方へ向かい、そこから広がる景色を見る。
「ホント、仁王君にはかないませんね…」
「プリッ」
「もうプリはやめたまえ」
「ピヨッ」
「…………」
無言でレンズの奥の瞳をすっと細めた柳生をごまかすように仁王が抱きしめ耳元で囁く。
柳生、大好きじゃ。
普段聞き慣れているはずの言葉なのに何故か心臓がうるさく音を立てて。
本気なのか冗談なのか、優しく微笑む仁王に見とれてしまう。
私、柳生比呂士は、詐欺師、仁王雅治に…騙されたつもりでこれからもお付き合いさせていただきます。
(出会った時点で、すでにあなたの詐欺にかかっていたのかもしれませんけどね。)
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フェンス、フェンスですフェンス
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