抱きしめる
「ごめんね、スパナ」
傷だらけのスパナを見て、正一は独り言のように呟いた。
スパナのこの傷は全て、正一が負わせたようなものだ。
「どうして正一が謝るんだ。裏切ったのはウチだ。」
いまにも泣きそうな顔の正一を慰めるように髪を掻き交ぜながらスパナはそう言った。
正一を裏切ったのは自分なのだから、この傷は自業自得だ。
正一は隊長だったから、こうせざるを得なかった。
「僕は、君を殺してもいいと命じたんだ…。大切な友達だった君を、殺してもいいと言った。本当の裏切り者は僕だ…っ」
ぎりっと唇を噛み締め、拳を強く握る。
立場上、仕方が無かったとはいえ、殺せと部下に命じてしまったのは間違いだったのだ。
大切な友達なのに…。
「あんまり自分を責めるな、正一。もう終わった事だ。ウチは生きてる。」
正一の髪から手を離す。
「結果じゃないよ、スパナ。…僕は、君を殺していたかもしれないんだ。」
「…そうだとしてもウチは、正一をゆる…」
「ダメなんだってば!!それじゃあっ!!」
スパナの言葉を遮り、叫ぶ。
スパナの命を奪おうとした自分が、そんな簡単に許されたらいけない。
スパナが許したとしても、自分自身が自分自身を許せない。
だれに責められようとも、必要であればスパナを殺せだなんて、言うべきではなかった。
たった一人心を許せた友達、大好きなのに、
「僕は、もう…スパナの友達ではいられない、よ……」
正一は床に腰を下ろし、膝を抱え込む。
「それなら、友達でいられないなら、ウチの恋人になってくれ。」
「……え」
予想外な言葉に正一は顔を上げ、スパナを見上げた。
「ウチは命より正一が大事だ。正一と友達でいられないなら恋人になってくれ。」
「―――ッ!スパナ…ッ!」
正一の瞳からはボロボロと大粒の涙が零れ、頬を伝い首へ流れる。
「正一とずっと一緒にいたい。」
「いいのかい、スパナ…っ?こんな僕で…」
スパナは正一の涙を指で拭い、その後ぎゅっと抱きしめた。
「正一だからいいんだ。好き。」
しばらく驚き硬直していた正一だったが、込み上げてくる嬉しさにスパナの背中に手を回す。
「うん…。僕もスパナがいい。好きだ…。」
抱きしめて、抱きしめて、
お互いの存在を確認しあう。
いつまでも、そんな関係でいられたら。
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100超えのお題挑戦に挫折しました
'10.11.25
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