ネガイゴト(七夕小説) 今日も今日とていつもと変わらず、仕事三昧。 「正一、笹。取って来た。」 最近仕事しかしてないじゃないか、とすこし落ち込んだ所へ、いきなり自分の身長と同じくらいの笹を差し出されたそれに思わず椅子ごと後ずさった。 正一はパソコンの前に座っていたので実際は自分の身長の半分程度、という高さだろう。 「さ、笹?」 「ん。今日はタナバタだろ?」 「あ、ああ…。」 そうだったっけ、と日にちを確認する。 確かに、今日は7月7日、七夕だ。 引きこもってパソコンや機械いじりをしているとだんだんと日にちの感覚が無くなってしまうものだ。 「正一もタンザク書いてくれ。笹に飾る。」 たまには外に出て運動しなければ、なんて事を考えていると目の前に長方形に切られたおりがみが差し出された。 どうやら短冊のつもりらしく、もう何枚か手に持っている。 「僕もかい?願い事なんてなかなか思いつかないや。」 「そうか?ウチはすぐに思い付いた。」 短冊とペンを受け取り、悩んでいるとスパナが自分のであろうおりがみ、短冊を取り出してすらすらと何かを書いた。 「見せて?」 「……飾った時に見ればいい。」 それを覗き込み、見ようとするとさっと素早く隠されてしまう。 「早く正一も書け。」 「う、うん…」 渋々といった様子で正一もペンを取り、短冊に願いを書き込む。 ――スパナの願いが叶えばいい、かな。 そう書き込んでからなんだ恥ずかしくなって短冊を裏返した。 今の所願いなんて無いんだ、こうするしかないよ。と自分に言い聞かせてなんとか顔の熱を抑える。 「正一、なんて書いたんだ?」 「う…た、たいしたことじゃ無いよ。」 「見せて。」 「や、やだよっ!」 覗き込んで来るスパナから短冊を守り、見られないように自分の後ろに隠す。 それでもなお、スパナはしつこく正一の短冊を見ようとしてくる。 「ちょ、スパナッ!うわっ!」 もみ合っているうちにバランスが崩れ、スパナが正一を押し倒すような形になってしまう。 肝心の短冊は正一頭の上の方に裏返しで落ちている。 「正一、教えて?」 「――――ッ!」 これでもかというほど顔を近付けられ、息を呑む。 こんなのって、ずるいじゃないか。 「す、スパナの願いが叶えばいいかなって思った!」 「え?」 「だ、だから…そう短冊に書いた。」 一気に顔に熱が集まり、自分の顔は真っ赤だろうと容易に想像がつく。 「僕が教えたんだから君のも教えてよっ!」 不公平だよ!と半分照れ隠しにスパナの願いも教えるように要求した。 「ウチは、正一とずっといられますようにって書いた。」 「え…?」 「ウチの願い、叶うかな?」 ふっ、と小さく笑った後に、唇に唇を押し付けられる。 すぐ離れていったその感触に正一は口を両手で押さえた。 「なっ、なにやって…っ!」 「ねぇ?正一、叶うかな?」 そう問い掛けてくるスパナの笑顔があまりにも幸せそうで、なんとなく正一は嬉しくなった。 だから、 「……多分、叶うと思う。」 恥ずかしさのあまり、顔を横に背けながらそう言って笑顔になる。 「よかった。」 ちゅっ、と今度は頬にキスを落とされた。 来年の七夕は二人で、同じ願いを短冊に書こう。 (オリヒメとヒコボシもずっと一緒にいられればいいのにな、正一。) (うーん…織姫と彦星は一緒にいたら仕事しなくなっちゃうからって引き離されたんだ。自業自得かな。) (…仕事するか、正一。) (……そうだね。) ――――――――――――― みなさん、七夕ですよ! 僕の今年の短冊には「世界平和。」と「みんなの願いが全部叶いますように。」って書きました。 だって自分の願いなんて無いんだもの。 あえて言えば「二次元に行きたい」ですよね! スパナと正一は恋人なのか親友なのか、よくわからない感じの関係が好きです。 いちゃつけ、スパ正!笑 '10.7.7 [*前へ][次へ#] [戻る] |