好き、かも。 カタカタとパソコンのキーボードを叩く音とカラコロと飴が歯にぶつかる音だけが響く部屋で資料に目を通すのが正一の日課になっていた。 1番落ち着く空間…。 「正一、好きってなんなんだろう。」 パソコンのキーボードを叩く音が止み、唐突に告げられた言葉。 正一は読んでいた資料からパソコンの前でモスカのプログラミングをしているスパナへと目を移す。 「なんだよ、いきなり。」 少し下がった眼鏡を指で押し上げ元の位置にもどしながら返事を返し持っていた資料を机の上に置く。 「ウチはモスカが好きだ。でも、同じくらい正一が好きだ。」 画面の前からくるりとこちらに向き直るスパナ。 モスカと比べられた…と少しショックを受けつつ正一はスパナから投げ掛けられた質問の答えを捜す。 「好き…か。」 でもそれは正一にとっても難しい問題でなかなか答えは出そうに無い。 『好き』なんて形には現せなくて、言葉で説明しろと言われても出来ない。 人の心の中には確かに存在するのに表には出せない…結局は曖昧なもの。 「ウチはモスカが好きだけどキスしたいとか抱きしめたいとか思わない。でも、正一にはキスしたい、抱きしめたい、服を脱がして直接触りたい。」 「す、ぱな…?」 いつの間に移動したのかスパナは正一のすぐ近くまで来ていた。 「正一」 スパナは名前を呼びながら正一と同じ目線の高さになるように屈み、机と椅子の背もたれに手をつく。 この状態じゃ、逃げられない。 ガリガリと飴をかみ砕き、器用に棒だけを吐き捨てる。 それからスパナは少し間を置いて言った。 「正一、好き。でも、『好き』が分からない。」 顔が、近い。 そう思った次の瞬間、唇を塞がれる。 「っん…」 固く結んだ唇の間をこじ開けスパナの舌が正一の口腔に侵入。 初めての体験にどうしていいか分からず、抵抗さえ忘れる。それをいいことにスパナは正一の舌に自分のそれを絡めた。 「ふっ、ん…ぅ」 口の中に甘いイチゴの味が広がる。 先程までスパナの舐めていた飴はイチゴ味だったのだろう。 そんなどうでもいいことだけが浮かんでくる。 「ん、んんぁ、ふっ…」 口腔を蹂躙され鼻にかかる甘い声が漏れはじめる。 飲み込み切れなくなった唾液が口の端から落ち首を伝う。 些細な刺激さえも快感に変換される。 キスだけでこんなになってしまうものなのか――。 「ぁふっ…んん、す、ぱなっ…苦し、はぁっ」 キスの合間に息の苦しさを訴えやっとスパナが離れる。そして今度は抱きしめられた。 「ごめん、正一。」 そういったスパナからはオイルと汗の匂い。 スパナらしいと少しおかしくなり正一もスパナの背中に腕を回す。 「スパナ。」 「何?」 「ん、なんでもない。」 訳も無く彼の名前を呼び、何故か嬉しくなる。 スパナが自分のすぐ近くにいるというそれだけの事でこんなにも幸せだ。 「好き、…かも。」 「何、それ。」 「うん、何だろう。」 「ウチは、正一が好き。やっぱり『好き』は分からない。それでも好きだ。」 スパナ、君、言ってる事が変だよ。 そう言って笑った正一につられスパナも笑う。 『好き』なんて考えて分かるようなものじゃない。 だったら人を好きになってから少しずつ分かっていけばいいじゃないか。 ―――――――――― はい、人生初スパ正作品です。 初作品からでぃーぷきすってどうゆーことでしょうかね、ええ。 まだ二人のキャラが掴みきれてなくていろいろおかしいとことかありますがその辺は大目に見たって下さい!! '09.9.25 [次へ#] [戻る] |