とある毒舌家の話 モーゼスと毒舌家 「何じゃ六助?もっと飲まんか!」 「だからオレは酒飲めないんだって、言ってるでしょう?」 「ほら!」 「・・・」 言葉を聞かなかったことにし酒をつぐモーゼスに、六助は溜息を吐く。クカカカと笑うモーゼスの顔は酔っ払っていて赤い。笑い上戸かあんた、と六助は更に溜息を漏らした。 そもそも、なぜオレはあんたと酒を飲んでいるんでしょうか。六助の出かかった言葉はモーゼスに遮られる。 「のう、六助」 「・・・何です?」 「ワレの大切なもんはワイが助けちゃる」 「・・・」 「じゃから、ワレはあんな奴に従う必要はない」 「・・・あんたって本当、馬鹿ですよね」 「なんじゃと!?」 「でも、」 ありがとうございます。怒鳴ってしまったモーゼスだが、小さく小さく呟いた六助のお礼の言葉に目を見開く。やがて小さく笑うと、ぐしゃぐしゃと六助の頭を撫でた。 「クカカカ!ワレも礼ぐらい言えるんじゃのう!」 「あんたよりは頭いいんで」 「・・・かわいくないのう」 モーゼスはそういいながらも嬉しそうに笑う。それからふわぁと大きな欠伸をした。 「眠いなら寝たらどうです?」 「そうじゃのう」 六助に促され、モーゼスはその場で横になる。それを呆れたように見遣った六助は、渋々という感じで近くにあった布団をモーゼスにかけた。 「おやすみなさい」 モーゼスの頭上から優しい言葉が振ってきて、モーゼスの口元は嬉しそうに緩む。そのままゆっくりと意識が闇に落ちていき−−− 目が覚めた頃には、 「・・・六助・・・?」 大事な家族の一人が、姿を消していたあとだった。 [*前へ] |