[携帯モード] [URL送信]
お面あばき
女子が大きらいだった。短くしたスカートから覗く足だとか、何時間かけてセットしたのかと思う髪型とか、左耳のピアスにブレスレット、ネックレス、学生カバンと紺ソックス、ローファー、ネクタイ。ファンデーションくさくて、生意気に香水振って。そんなことしたってわたしたちは大人に近づくわけでもなければ、子供を卒業できるわけでもない。恐ろしいまでの自己中心的な見解や、自惚れた主観は吐き気がするほど子供じみていた。世間知らずで常識外れで気に障るくらい鈍で天然だった。わたしに言わせてみれば彼女たちは馬鹿だったのだ。

学校には行ってる。“友達”はいる。アドレスだって交換した。放課後は一緒に帰って、ジェラート食べて、ファンシーな雑貨店に入りおそろいのチャームを買った。再来月まで、土日は彼女たちと遊ぶ予定でいっぱい。わたしは彼女たちと行動を共にした。はやりのアーティスト、香水やブランドの話をする。作り笑いは大の得意だし、嘘をつくのは楽しかった。なにより彼女たちのこの上なく滑稽なさまを心の奥底で嘲笑うのが一番愉快だった。この友情ごっこがどんなに時間の無駄か、どれほど無価値か、なんの利益も生みださない行為か。いや彼女たちはこれがままごと遊びだということも知らない。彼女たちは馬鹿なので、この行為の真意も意義にもなんら疑問も持たない。あんたたちにはそれを理解する能さえないんだから、だから教えないでおこう。そうやって馬鹿のまま生きてればいい。自分の無知無能さを知らずに生きることほど、屈辱的なことはないんだよ。











「ずいぶんと演技がうまいんだね」




接点なんてものはなにもない。わたしにとっての雲雀恭弥は、名前こそ知ってはいるものの、ただそれだけの存在だった。名前、雲雀恭弥。たびたび彼女たちとの会話の話題にのぼる名前。しかしわたしが知るのは名前だけで、そのほか彼の存在そのものを確立できるだけの事がらをわたしは知らなかった。
なんだ、雲雀恭弥という人は男だったのか。わたしは雲雀恭弥さんを目の前にして、こんな失礼なことを考えた。仕方ない。それぐらいわたしは彼に関して無知で、また無関心だった。

作り笑いは大の得意だったし嘘は上手かったし、演技は完璧だった。わたしのどこにだって隙という綻びはなかったはずだ。わたしはわたしの彼女たちにあるべき姿を完璧に演じていたというのに、


雲雀恭弥は瞬時にしてわたしの仮面を見破った。





「ちょっと、聞いてるの?」




雲雀恭弥は機嫌が悪かった。どうやらわたしがあまりにも雲雀恭弥を知らなさすぎて、それが彼の気を悪くしたらしい。雲雀恭弥はすごく美人で、だけど髪も目も真っ黒で、異様な目つきの悪さをぬいては日本人として平凡な顔だった。腕には風紀委員の腕章があって、手には金属みたいな棒を握って。あぁこの人は、わたしの周りにいる馬鹿とは多少違うようだけど、頭が変なんだ。
「僕のこと知らないの」とか言い出したもの。







「知りませんでした」

「この学校の生徒なのに珍しいね」

「そうですか」

「そうだよ」

「そうですか」

「ふぅん。喋りたくもないって?まぁ、用はすぐすむから」




雲雀恭弥はそう言って、わたしのほうへさらに一歩近づいた。まつ毛が長い。すっとした鼻筋。形のよいくちびる。たがいの吐息を感じる。





「君のその作り笑い、素敵だね」






綺麗に弧を描いた口もとは雲雀恭弥のその端整な顔を、さらに艶やかにした。みょうに色っぽくていやらしかった。
雲雀恭弥はわたしの胸ポケットから生徒手帳をするりと抜きとり、見せつけるようにそれを掲げて、廊下を歩いていった。




お面あばき
(返してほしかったら、応接室までおいで)


あきゅろす。
無料HPエムペ!