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結婚の条件
「結婚するなら、女の子か猫がいいなぁ」

「へ?」





僕と彼女は、結婚を前提に付き合ってるとか、ましてや世間一般が言う恋人という甘やかな関係でさえない。かと言って、赤の他人どうしというにはその言葉は冷たすぎる。出会ってからそう長く月日を経てはないけれど、僕らはまぁまぁ並に仲のよい友人としてふれあってきた。それが、僕がふたりの関係にだんだん満足できなくなってきたのがつい最近。これは勝手な私情だけれど、僕はお友達どうしというこのボーダーラインを踏み越えようと思うんだ。今、やっと一大決心したところで、こうやって外出を渋る彼女を無理矢理連れだしたのに、

結婚するなら女の子か猫



死刑宣告でも受けた気分だった。だって僕は猫でも女の子でもないんだから。
別に、結婚してくださいなんて大それたことを告げるつもりは毛頭なかった。好きだ、とだけ伝えて、あわよくば往来で堂々と手を繋げるような、そんなふうになりたいなぁと、望んでいたのはささいなことだった。でも、もし、仮に。もし仮に、大人になって、それまできみと僕が不思議なくらい上手く続いていたとして、その時どうするんだよ。僕はきっと、きみ以外を愛するなんてことはできなくなっているだろうに、きみはきみで女の子か猫と結婚するなら(いやあり得ないけど)、僕はどうするんだよ。責任とってよ。いや、そんなこと言ってる場合じゃないけど。


僕はヘナヘナと頭を垂れる。



「…猫とは、結婚できないよ」

「知ってるよ、なんだっけ、…じ、じじ、じゅうか…ー」

「やめてよ!」

「あっゴメン」

「それから女性どうしでも無理だからね…、分かってる?」

「ねーっ。シャドウ結婚でもすっかなー」

「……、…………なんだって?」

「シャドウ結婚。シャドウボクシングみたいなの。相手がいるつもりで結婚ー、的な」

「………………」

「可愛い女の子いないかなー」




恐ろしいくらい済んだ秋空に、若干、切なさを孕んだ言葉が吸い込まれていった。彼女は呑気に欠伸をもらし、僕はため息を吐いた。なんかもう、…言う気なくなった。削げた。萎えた。これって僕に勝目ないんじゃないか?自問のつもりが、そうだねぇ、とおせっかいにもヤツが答えを返してきた。



(うるさいよ、おまえ)

(大変そうだなぁ、主人格さまよぉ。代わってやろうか?)

(断る。これは僕の問題だし、それにおまえに任せるとろくなことがなかったろ今まで)

(そうかぁ?俺様のほうが、こっちもデュエルも有能だと思うがなぁ)

(お、おまえはただ積極的なだけだろ!僕は慎重なんだよ!)

(ただのヘタレじゃねぇか)

(ちがっ…違う!)





「マリク?」

「…!えっ、あっ、な、に…?」



いきなり名前を呼ばれて、我にかえった。しまった、声に出ていたかもしれない。怪訝そうに見てくる彼女に作り笑いを貼りつけた顔で応え、とにかく今は表に出てくるなよ、と念を押すと、ヤツは嘲いながら素直に奥へと引っ込んでいった。




「マリク」

「ごめん、ぼーっとしてた、…」

「マリク、そのまま、」

「え?」

「あぁあ、動いちゃだめ!さっきの!さっきの顔もっかい!……違うよ、もっと目伏せて!」





一体なんなんだ。すぐに身体を起こしたいのを堪え、首をちょっと曲げて目線をやや下向きに据える。すると、彼女の顔が近づいてきた。僕の顔を真摯な表情で覗き込み、おー、と小さく感嘆の声をあげ、まつ毛まつ毛と連呼する。
まつ毛がなんだって?



「まつ毛なっがー。ばさばさだ」

「…そ、そう?」

「にっくーい、わたしより長い」

「そうでもないと思うけど」

「瞳も大きくて鼻筋すっとしてて。何気に美人なんだよ。女の子みたいだなぁちくしょ…、…………あ、…そっか」






彼女がなにか思いついたように呟いた。
僕はパチパチと瞬きしてみせる。






「マリク、女の子になってよ」





もれなく結婚しちゃうよ、そう告げられた。
…心の奥でヤツがゲラゲラ笑ってる。



…………それは、無理です。




結婚の
条件






…っていう少女漫画あったよなぁ昔…
ヒロインは、うん、同性愛者とかじゃないんで。俺だって、猫か可愛い女の子と結婚したいよ…。二次元の女の子と結婚したいよ。二次元の女の子好きだーってのをヒロインに言わせたかったとかそうじゃなかったとか、動機は不明



あきゅろす。
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