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少女の誓い
#3
 そして少女は詠唱を完成させると、ふうと小さく息をついた。
「ふふ。驚いているようね。よーく覚えておきなさい、この魔法使いレイラの名をっ!!」
 不敵な笑みで言って退けると、少女――レイラは右手を前に突き出した。
「行けっ!!ファイアボールっ!!」
 そして魔力のうねりを右手に集中し、レイラは高らかに叫んだ!
 ……が。辺りはシーンと静まり、何かが起こった様子も、起こる様子も、ない。
 うわぁっ、と両手で大袈裟に顔を隠し身構えていた髭面の男も異変に気付き、そろそろとその手をどかした。
 当の本人であるレイラはというと、何事も発しない右手をただ呆然と見つめていた。
 彼女の予定では右手から凄まじい威力を持った火球(あくまでも予定)が髭面の男を襲うはずだったのだ。
 レイラは魔法使いの卵である、と訂正しておこう。
「へ……へへ……驚かせやがって、ハッタリかよ……」
 渇いた笑い声をあげて額の汗を拭う髭面の男。全身汗じとである。それもそのはず、髭面の男は死をも覚悟し、走馬灯のように様々な記憶が入れ違いに脳裏に蘇るのすら見たのだ。
「なめやがって……!」
 結果として髭面の男は更に憤怒し、レイラにとって状況は悪化の一途を辿る事になった。
 が、レイラは目の前の男がコロコロと万華鏡のように表情をめくるめく変えた様を、無視した。いや、気付いていなかった。
 未だ前に伸ばしたままの自分の右手を見遣り、眉間に皺を寄せている。
 レイラは何故魔法が失敗したのか、という一点にその意識を全て持っていかれたのであった。
 何故だろうと思いつく事を並べてみる。
 ルーンを間違えた?……うーん有り得る。魔力が足りなかった?……うーん有り得る。詠唱が終わってから放つまでに名乗りを入れたから?……うーん有り得る。
 詰まるところレイラには全てが怪しく思え、そして結局何が原因なのかはわからないのであった。いつもの事である。
 しかし今回はそのいつもの癖が、またも状況を悪くした。
「このガキがあぁっっ!!」
 完全にスルーされていた髭面の男が激昂し、少女を完璧に間合いへと捉えたのだ。

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