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『兄上様!』
窓際で刺繍をしていた麗華は、果物を抱えた青年の姿を見るなり、ぱっと立ち上がった。
『兄上様、陸遜様も!ご執務はよろしいのですか?』
「ああ。それより麗華、桃をもらったのだ、いっしょにどうだ?」
『はい、ありがとうございます』
女主人である麗華が頷いたのをみて、女官が包丁を取りにいくのを視界の隅で捕らえた。
あの日、諸葛亮と呉との密約のもと、陸遜に拉致された彼女は、先先代の落胤の『公主』として呉へ迎え入れられた。
もちろん、本当の公主ではなく、本当の呉を統べる孫権の妹ではない。
けれど暖かな歓待に、彼女は孫権を本当に兄のように慕い、兄上と呼んでいた。
「殿がお土産をお持ちなのに、私は手ぶらですみません、麗華様」
『なにをおっしゃいます、陸遜様。こうしてお顔をお見せくださるだけでうれしいです』
「なんだ、妬けるな。麗華、私には言ってくれぬのか?」
『もう、兄上様。もちろんお忙しいなか逢いにきてくださってうれしいです』
にこりと笑った麗華の笑顔に、思わず二人の青年の頬が緩む。
「公主様」
女官たちが包丁と皿、そしてお茶を運んできた。
『ありがとうございます。私が剥きますから、あなたたちも少し休憩してください』
「で、ですが公主様」
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