鏡の中の笑顔






半年前に流行った音楽が携帯電話から響く。
設定してから特に曲を変えるでもなくそのまま放置したままだった。
私は特に好きではない。
設定したのは確かいのだ。

電話を手に取りディスプレイを確認。
浮び上がっている名前を見て心臓が跳ねた。





「もしもし」


―「よう、小娘…」―


「どうしたのよ、急に」


―「……電話は一々事前に連絡なんてするもんじゃねーだろ」―





―――これだから小娘は…

電話口の相手は私を馬鹿にするためだけに私の貴重な時間を奪うと言うのだろうか…
だったら速攻切りたい。

私の気も知らないで…





「……で、用件は?大したことなかったら切るわよ」


―「        」―


「なに?聞こえないんだけど?」

―「外…見ろ」―





窓を開けると家の目の前にはサソリがいた。
その脇にはハザードランプを点滅させた深いメタリックブルーの外国車。
車と赤毛のコントラストはちぐはぐなのにその車が似合わないとは思わなかった。





「なんでいるのよっ!!?」


―「迎えに来た」―


「迎えに来たって…随分勝手な事言うわね!」


―「良いだろ?別に」―


「良くない!!私にだって予定あるんだから!…今日アンタからのお誘いなんて私、頂いてないんですけど?」


―「フン……どうせ予定なくて暇してたんだろ」―


「………」


―「図星だろ」―


「し、失礼ね!私にだってやることぐらい…」


―「何だよ言ってみろよ」―


「………と、とにかく忙しいのっ!!」





受話器越しに聞こえた溜息。
自分よりも数メートル下のサソリは携帯電話を耳から離し、下ろしたのを見て諦めたんだと思って私も受話器をゆっくり離す。

なんだか、少し寂しく思ってしまったのは本当。
素直じゃない自分のバカさ加減にも腹が立ったけど、サソリの諦めの早さに更に腹が立った私はなんて小さい人間なんだろうか…



直後、深く呼吸をし始めたサソリの行動が目に入ってきた。





「「「「サクラ!!!オレとデートしてくれませんか!!?」」」」


「!!」





予想外の行動だった。
サソリの滅多に出さない大声は思いの外響いて、数人の通行人の足を止めさせた。
何より言葉の内容が私に混乱を与えていた。





「ちょ!!声大きい!」


「「返事は!?」」


「…………く」


「「聞こえねー!」」


「「行くわよ!!」」





通行人の視線を感じて恥ずかしくて頬に熱が溜まっていく。
ニヤリと笑うサソリは、携帯電話を耳にあて、私にも耳に当てろと言うようにそれを指差すから、
私も再び携帯電話を耳に押しつけた。





―「30分以内に準備出来るな?」―


「……うん」


―「遅れんなよ」―





携帯のディスプレイに表示される通話時間はジャスト3分。

私は急いでクローゼットを開け放ち、近づくリミットの中、鏡の前で鼻歌混じりに格闘を始めたのだった。






鏡の中の笑顔




今度は私がアンタを驚かせてやるんだから…首を洗って待ってなさい…!











あきゅろす。
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