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GANTZ長編小説
決意
西がガンツの部屋に転送された時、誰もいなかった。その事に西は軽く息をついた。そして一拍遅れて、そんな自分に舌打ちした。

玄野に会う事を恐がっている自分がいる。

馬鹿馬鹿しい。何を恐れる必要があるんだ。玄野が逆上して、掴みかかってくる可能性はある。しかし、なら。


殺せばいいじゃねーか。


玄野の事は気に入っていた。たが、あくまで自分の駒や玩具のような物だ。いつしか、玄野の前で不良を弾けて見せたように、新メンバーの前で玄野を弾けさせて見せてやればいい。体格は劣るが玄野と西は残忍性が違う。玄野は人殺しなんて出来ないが、西は出来る。


面倒なら殺せばいいのだ。


玄野が転送されて来た事に気が付いて、西は気を引き締めた。袖に眠るXガンを握ると、いつもより重く感じたが気のせいだと言い聞かせた。

玄野と目が合うと、玄野は顎で玄関を指して聞いてきた。

「…他の連中は?まだ?」

「…みたいだな」

「ふぅん」

西は顔には出さなかったが、当惑した。玄野は、まるで普通だった。激怒する事もなく、詰責する事もなく、怖じ気る事もなかった。
西は壁に寄りかかりながら、玄野の西に対する処遇について考える。


見過ごすという事だろうか。


できるか、そんな事?あんな理不尽で卑劣な行為を強制した張本人を前に、断罪せずにいられるか?少なくとも自分ならできない。

そこで西ははっとした。触れる事すら嫌なのだ、と。あの出来事は男としてのプライドをズタズタにしたに違いない。だって、あれは本当に最低な行為だった。


西は初めて人を抱いたのだ。


しかも本来そういう器官のない、正気ではなかった男を。相当痛かったに違いないのだ。それでも玄野は西を責めない。


それ程までに。


責める前に諦念が芽生える程に、玄野を傷付けていたんじゃないだろうか。


恐らく、母親以外には今まで一度も抱き得なかった罪悪という感情が西を包み始めた頃、ラジオ体操の音楽が流れた。二人して凍りつく。

「おッ…おい!今回、二人だけ!?」

チビ星人の紹介画面が消えて、ミッションの制限時間が表示された。
西も舌打ちして、武器を手に取る。

「やるしかねーだろ」

焦りはあるものの、ミッションの音楽が流れた事で西はスイッチが入り、逆に冷静になった。

「マジかよ…くそっ」

愚痴りながら、玄野も両手に武器を持った。西は足から転送されていく最中、緊張の面持ちで待つ玄野に言った。

「おい、玄野ォ」

「なんだよ」

「オレの足引っ張んじゃねーぞ」

西は口元だけ笑った。演技だったが玄野にはバレてないだろう。

「は!?そりゃこっちのセリフだっつーの。オレは…」

玄野は西を睨み付ける。少し苦しそうな表情だった。


「オレは加藤じゃねーから、助けねーぞ」


またあの偽善者か。西は苛立ち紛れに舌打ちした。あぁ、でも。


でも、良かった。


危ない所だった。犯して、都合が悪くなって、殺したら。そんな哲学を許したら。

自分はジェフリー・ダーマーやハインリッヒ・ポメレンケなど、その手の輩と同じ種類の人間になっていた。


オレは玄野を殺さない、絶対に。


西が自身の決意を咀嚼し終わると同時に転送も完了していた。

そう、西は本当に危ない所にいたのだ。ここでもし、玄野を殺していたら西は一生どうする事も出来ない痛みを負っていただろう。それは西の心臓を膿んで、確実に破壊する程のものだった。西は一線を越えるのを踏み止まったのだ。

そして、いつも通りステルスモードに入り、敵の場所を確認する。ミッションの最中は余計な事を考えず、集中する。それが生き残るコツだと西は知っていた。




下から吹き上げる風がビルの上に立つ西を包んでいた。街には人工的な光が溢れている。西は一度、瞼を閉じて、光の残像を掻き消した。



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