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GANTZ長編小説
競競
なんで、こんな時に加藤を思い出すんだろう。


勘弁してくれよ。


下半身の無くなったチビ星人の地を這うような鳴き声が木霊する。玄野は自然に涙が出て来た。くそ、最悪だ。オレが悪いのかよ。こっちだって殺らなきゃ殺られるんだぜ。

玄野の指が引き金から降りる。

「撃たなくても…ほっとけば死ぬさ…」

加藤…捕獲銃ばっか持ち歩いてたな…アレ持ってくりゃよかった…。


加藤…。


チビ星人が息絶えたのがわかった。死んだんだ。

玄野は涙の止まらない目元に袖を押し付けた。

どうして西は、あんな風にいられるんだろう。どうして、歌うように殺戮を繰り返せるんだろう。


オレは…。


ドスンッという何かが地に着く足音によって玄野の思考を断ち切られる。それも数回続き、玄野はチビ星人達に取り囲まれていた。そして、玄野は確かに聞いたのだ。テレパシーによって、チビ星人が仲間の死にどれだけ憤っているかを。それでも、死にたくなかった玄野は戦った。



チビ星人の蹴りで冗談みたいな高さまで蹴り上げられた時、玄野は本気で死を予感した。地面に打ち付けられて身体中の骨が軋む。でも、休む暇もなく両腕を掴まれて、引っ張られる。関節や血管が悲鳴を上げる。玄野は痛みと恐怖に絶叫した。それでも絶対的力の前では抵抗すら出来ない。

「あああッあ゛あ゛あ゛ぁあ゛ぁぁあ!!!!!」

完全に両腕を引き千切られたと思ったが幸いにもスーツが千切れただけで、玄野の腕はくっついていた。
だけど安心する事も出来ず、むしろ生身だったらと考えて玄野は吐き気がした。子供のように叫びながら、泣きながら、武器のある方に逃げる。銃を掴んで、飛んで来るチビ星人達を撃ち落とせば。


まるで、桜吹雪のように肉片と血飛沫が舞った。


玄野の足はガクガク震えて落ち着かない。恐怖や戦慄がないまぜになり、怯える玄野は随分無様な姿だったに違いない。だが、玄野の頭の中では徐々にパズルのピースが揃うように理解出来てきた事がある。


本当に獣になる。


戦場では倫理や道徳を考える暇もないのだ。

「お前も殺してやるッ!!こっち来やがれッ!!」

最後のチビ星人を精一杯挑発する。完全に虚勢だった。玄野の身の内は、胃が縮むほどに、あの小さい生物に競競としていたのだ。そして、相手にもそれはバレていた。
玄野は思う。


オレは覚悟なんてあったか?


結局、玄野は最後のチビ星人を前に尊厳も矜持もかなぐり捨てて逃げた。
腕が折れても、血が流れても、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げた。

沢山の人間が玄野を素通りする度、誰も助けて貰えない捕食者の気持ちを味わった。


加藤もいないんだ。


玄野は現実を噛み締めた。
そして車と壁の隙間に隠れながら、ただひたすら速く時間が経つ事を祈り続けた。



気が付くと玄野はガンツの部屋にいた。それなのに、玄野はとてもじゃないが逃げ切れたと思えなかった。身体の震えが止まらない。

転送される西が視界に見えて、あんな子供にすら縋りたいと思う自分がいる事に、玄野は気付いた。



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