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GANTZ小説
合ってなかったよ初めから。ただ見ていただけ(西玄)
それはミッションが終わった夜だった。


星人の血やら臓物やらを全身いっぱいに浴び、空を見上げた。
三日月がガンツチームを嘲笑うかのように弧を描いて輝いてた。

(それでも今日はみんな生き残った)

歩き慣れた街で全身を漆黒のスーツでまとって銃を鳴らし、生き物の血飛沫を浴びながら轟音を響かせる。

(リアリティのない画だよな)

しかし、実際この時間程、生を実感することはないと心底思う。
ドクドクと全身が脈を打ち、息が上がる。
もちろん、それは油断をしたら一瞬で奪われる儚く危うい生の鼓動だったが、今日は誰も失わなかった。

周りを見渡す。
腕が千切れた桜井と脚がもげた稲葉が転送されていくのが見えた。

(良かった。間に合った)

ほっとしている皆の向こうで左腕のない西が険しげに汗を流しているのが見えた。

(あいつも間に合う)

ミッションでの怪我の割合に比べて西の生存率は驚くほど高い。

(悪運に強いだけかもしんねーけど)

西が脚から転送されていくのが見えた。それと同時に玄野も頭から転送された。


目を開くと電車の中だった。
ガタンゴトンと先を急いでいる聞き慣れた音がする。
(…あれ?)

黒い玉のあるあの部屋ではなかった。見渡すと同じ車両に五体満足の西がいた。

「西」

西は玄野が続きを言う前に答えた。

「わからない」

西も初めてのことだったのだろう。疑問を浮かべた顔をしていた。
どうしてこんな所に、しかも玄野と西の二人だけが転送されたのかわからない。

「…まだミッションは続いてるのかもしれない」

玄野の呟きに西も頷いた。
ところが暫く待っても星人が来る様子もなく、電車は走り続けた。

「…先頭車両まで行ってみるか」

「あぁ」

玄野の提案に西が頷き警戒しながらも移動しようとしたとき、電車のスピードが緩やかになり駅に停まった。
それは見たことのない駅だった。
扉が開いた瞬間、二人は咄嗟に構えを取ったが、乗り込んで来たのは小さな二人の子供だった。

玄野も西も顔が硬直した。そして、ほぼ同時に二人して呟いた。

「「…オレ?」」

玄野と西は顔を見合わせた。

目の前にいるのは小さな玄野と西だった。

(星人なんじゃねーだろうな)

玄野の疑いもどこ吹く風で二人は繋いだ手を大きく振り(小さい玄野が勢いよく振っているだけで小さい西はされるがままになっているようにしか見えないが)、シートに座ろうとする。

「にしー!ここあいてる!すわろうぜ!!」

「…だれものってないから、ぜんぶあいてるけど」

「ほら、はやくはやく!」

ぽんぽんっと小さい玄野が自分の隣のシートを叩く。
小さい西は静かに腰を下ろした。

玄野と西は困惑した。

(…俺たちが見えていない?……っていうか…)

玄野は顔に血が集まるのを感じた。
なんだこいつら何でそんな親しげなんだよなんか恥ずかしいだろ!!あの西だぞ!?なんでオレ西と手ぇ繋いでんだよやめてくれ気色悪いと思わねーのか西もなんで満更でもない感じでオレについてってんだよお前なんか生意気が服を着て歩いてるようなやつなのにあああああ!!!!

頭を抱えてのたうち回りたい気分だった。誰かぁぁぁああああオレが入るための穴を掘ってくれぇぇぇぇぇぇえええ!!

しかし、実は玄野の千倍は西の方が恥ずかしかった。何せ「多感なお年頃です。全てに反発します」という旨の説明書を持っていても可笑しくない、誰とも馴染まないプライドの高い西が、今現在、少なからず想っている人間と馴染んでいる自分を見ているのだ。
そして扉が閉まり電車が再び走り出した。

和やかな雰囲気の二人の対面のシートに、気まずい雰囲気の二人が顔を背けて座った。

もはや目の前にいるのが星人でも幻覚でもどうでも良かった。早く帰りたい。


ガタンゴトンガタンゴトン…

小さい玄野が後ろの窓に顔を近付けてはしゃぐ。

「にしー!みろよ!とうきょうたわーだ!」

「…ほんとだ」

小さい西もチラリと、少し興味の湧いたような顔で東京タワーを見た。

玄野と西は再び頭を抱えた。

すると暫くして東京タワーに飽きたのか、小さい玄野が目の前のつり革に掴まり足を持ち上げた。

「にしー!!みろ!すげーだろ!!!」

やめてくれぇぇぇええええ!!と玄野。

「…それくらいオレだってできるし」

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛と西。

小さい西は靴を脱いでシートの上に立ち、つり革を掴んだ。

「…に…西くーん、あのさぁ、これは見なかったことに…ていうか、この事は無かったことに…」

「絶対だからな、口外すんなよ」

それから玄野と西の気持ちも知らず、小さな二人は数分間はしゃぎ続けた。

ところがだんだん小さい西がそわそわし始めた。シートに座ると地に着かない可愛い足が電車の振動とは別にぶらぶら揺れる。

「なぁ…あしたは?あしたはどこいく?」

小さい西が小さい玄野を見て、やや不安げに聞いた。

「オレはあした、かとうとあそぶンだよ」

小さい玄野は楽しそうに何の悪気もなさそうに答えた。

「…ふーん。そー」

小さい西は顔を背け、少し不機嫌そうに呟いた。

玄野はその年相応の、寂しげな表情を見逃さなかった。

(誘えよオレ。3人で一緒に遊ぼうって誘えよ)

だけど、いつまで経っても小さい玄野は窓の外を見ているだけだった。

しばらくして、また電車が駅に停まった。

小さい西がシートから飛び降りた。

「かえるのか?にし」

小さい玄野に小さい西は頷いた。

「…ママもまってるし」

その返答を聞いた瞬間、玄野の身体に悪寒が走った。全身の毛が逆立つ。

(何だ!?今の…)
小さい西はトボトボと扉に向かって歩いていく。

(オレは…何だか、とんでもないミスをしてるんじゃねーか?)

玄野の頭を暗い影が包み込んでいく。

そして小さい西が電車から降りて、こちらを見たとき。
その闇に溶けるように深い眼を見たとき。

玄野は思わず立ち上がって叫んでいた。

「西待てッ!!待ってくれッ!!」

玄野が小さい西を追いかけて掴もうと電車を降りたとき。

「玄野ォッ!!」

西が玄野の腕を掴んで車内に引きずり戻した。

体格差を物ともしないほどの力だった。

電車の扉が閉まる。玄野は車内から小さい西がさらに小さくなっていくのを見た。輪郭がぼやけて光に交ざり、白い塊になり、それはやがて見えなくなった。



気がつくと他のメンバーがいるガンツの部屋だった。西も五体満足でいた。

(何だったンだ今の…夢?走馬灯?)

加藤が心配そうに見つめているのがわかった。

「計ちゃん?…大丈夫?」

「え?」

「…何で泣いてるんだ?」

玄野は咄嗟に自分の頬を触った。
玄野は泣いていた。涙は止まることなく頬を伝っていく。止めようと思っても止まらなかった。それどころか嗚咽を我慢することも難しくなってきた。

「うっ…はぁっ…」

しかし、涙の理由を玄野はわかっていた。

(何で誘わなかったんだよオレ。何でオレはっ…止めなかたんだ何で西を一人で下ろしたんだよっ…一緒に行けば良かったんだ)泣き続ける玄野にメンバーが戸惑っているのを肌で感じた。

「計ちゃん?大丈夫だよ、皆生きてるよ。誰も死んでないよ」

(違う。死んだんだ。あの子はあの時ー…)

加藤が見当違いの慰めをしようと玄野の肩に触ろうとしたとき。



西がその手を振り払った。



部屋が静まりかえる。

「…な、何だよ」

加藤が西の行動の真意を聞くと西は加藤を正面から見据えた。

「…別に」

険悪になりそうだった雰囲気を押し留めたのはガンツの採点だった。

それから玄野も涙が止まった頃に加藤に、こっそりと聞いてみた。

「なぁ、オレと西、すぐにこの部屋に転送された?時間差とか長くなかった?」

「いや…オレが転送されて、すぐに西と計ちゃんが転送されたよ」

「…そっか」

深刻そうに頷いた玄野に加藤は顔をしかめた。

「計ちゃん大丈夫?西になんかされた?」

「いや、何でもないんだ。ごめん、驚かせて」

そう答えた玄野に、加藤は心配そうにしていたが、それ以上聞いては来なかった。それが玄野には有り難かった。



ミッションが終わり解散になって、一人で家路についていた玄野は足を止めた。
自宅のアパートの前で西が立っていた。

「…西」

「玄野」

しばらく二人は見つめ合っていた。周囲はやけに静かで街灯に蛾が羽をぶつける音だけが響いていた。
先に口を開いたのは玄野だった。

「何だったンだろな、今日の」

「…あぁ」

「ミッションとは関係なかったみたいだし」

「…あぁ」

「西」

「何だよ」

玄野は西に近づいた。西の右手をとった。冷たくて白い頼りない手だった。
強く握った。

「…前言撤回する」

「…」

「オレは今日のことを見なかったことにも、なかったことにもしない」

なかなか西の手は暖まらない。そもそも玄野も体温が高い方ではないのだ。

「オレは今日のことはしっかり見たし、ずっと覚えてる」

(お前を誘わなかった残酷さも止めなかった愚かさも一緒に降りなかった弱さも)

西は玄野を見て、いつもの薄笑いを浮かべて言った。

「…別にいいけど。口外はすんなよ、したらブッ飛ばす」

玄野は笑った。そんな玄野を西はハリ倒した。

しばらくして笑いが収まった玄野は西を見た。

「なぁお前さ、もし次、死ぬときはさ「アンタも道連れに決まってるだろ」

「…うん」
オレの声に悦びが滲んでなければいいと思ったが、多分無理だった。






(そうですそうです同じ死に方はもう飽きたの)

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