海に還った人魚 針谷Side 08.7.10 UP 呆気ないくらい、簡単だった。 何か肩透かし喰らったみたいな、そんな感じ。 何日も何日も思い悩んだオレが、馬鹿みたいじゃん。 色んな台詞を考えて考え抜いた末に、オレの口から出た言葉は 「…もうオレ達、終わりにしねぇ?」 だけだった。 美月を傷付けないように考えていた台詞は、本人を前にした途端塵と化し、無残に頭の中から吹っ飛んじまっていたから。 ……ホント、ここ一番って時にパニクるなんて、マジ情けない。 そんでもって美月は、オレの言葉に 「……うん、分かった」 って、小さく笑った。 美月がヒステリックに泣き叫ぶような女じゃ無いのは分かっていたけど、まさか笑って承諾するなんて思ってもいなかったし。 美月を傷付けなくて良かったって心底思ったけど、もうちょい、なんてえの。 俺に縋るような美月の言葉が聞きたかったって思うのは、俺の身勝手なんかな。 それとも、あれか。 オレが感じていた程、美月はオレに執着していなかったってか? ……なんて事は有り得ねえ。 だったら、美月と別れたりなんかしねえし。 けど、別れを切り出したオレが泣きそうになってんのに、何で美月は笑っていられんだろ。 それが、不思議だった。 けど、それさえも分かってやれない程、オレの心は美月から離れたがっている。 優しく微笑んでじっとオレを見上げていた美月の視線に痛堪れなくなって、思わず顔を背けてしまったのは、自責の念があるからで…… そんなオレを見透かすように、美月が小さく囁いた。 その声色は、この腕の中で何度も聞いた甘い痺れを伴って体中に響き渡る。 「……一つだけ、約束して欲しい事があるの。それを守ってくれるなら……別れてあげる」 その言葉に、オレはただ頷いていた。 それが、美月に返す 最後の愛の欠片だったから。 [*前へ] [戻る] |