海に還った人魚
美月Side
「…もうオレ達、終わりにしねぇ?」
コウにそう言われた時“あぁ、やっぱりね”って思った。
最近のコウは私の瞳を見なくなったし、一緒に居ても二人を包む空気に以前のような温かみは感じなくなっていたから。
そして何より
コウは私に触れなくなった。
それまでのコウは、その情熱の源は一体何どこから来るんだろうって思ってたくらい、いつでもどこでも私を欲しがったのに。
何もかもが初めての私に、コウは容赦無く様々な女の悦びを植え付けた。
それは羞恥とプライドを引き換えに与えられる、熱く骨の髄まで蕩ける程の目も眩むような快感。
そしてそれはいつしか甘美な麻薬みたいに、私の躯だけじゃなく心までも蝕み始めていった。
コウに名前を呼ばれる度に、指先が震えて。
コウが私に触れるだけで、躯の芯に火が点った。
きっとコウは、
私以上に、私の躯を知っている。
それなのに。
ずっと花のように愛されてるって思ってた。
コウの愛情という水と養分で綺麗に花開いた私は、コウから与えられる水が無ければ枯れてしまうの。
最後まで愛でられない花なら、手折って欲しくなかった。
もう土に根付く事が出来ない花にその愛情が与えられなくなったら、花は淋しく朽ち果てるしかないじゃない。
他の誰かじゃ、駄目なの。
コウじゃなきゃ、駄目なの。
コウが愛を囁くのは、私じゃなきゃ嫌なの。
だから。
「……一つだけ、約束して欲しい事があるの。それを守ってくれるなら……別れてあげる」
私は笑ってコウを見上げた。
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