海に還った人魚 針谷Side 08/6/26 UP 一生一度の恋をした。 まだ人生の半分も、生きちゃいないけど。 こんなに身も心も焼き尽くすような恋愛は、もう二度と出来ない。 そう思える恋に、 オレは美月と堕ちたんだ。 『……コウが好き』 初めて美月から、そう告げられた時の感動は今でも覚えている。 多分美月は気付いちゃいなかったけど、その時のオレはマジ泣きしそうなくらい嬉しかったから。 一分一秒でも一緒に居たくて、デートの帰りは必ず遠回りをして帰ったよな。 だけど長く一緒に居れば居る程、美月に触れたくて触れたくて。 俺が悶々とした夜を幾度となく過ごしていたなんて、きっと美月は知らないだろ。 そんな思いが強すぎて、ふざけ半分で美月に触れたら…… もう、止まらなかった。 朝の空き教室、昼の音楽室、放課後の屋上、公園、駅の公衆便所。 美月と二人っきりになれる場所なら、どこででもオマエを抱いたっけ。 美月が欲しいって思ったら、移動する時間さえ惜しかったんだ。 ホント、自分でも呆れるくらい蒼かったんだな。 オレが美月の躯に溺れる毎に、美月は言葉を欲しがるようになった。 『私の事、好き?』 『……愛してる?』 『私だけを見て……』 躯を重ねる度に繰り返される美月の睦言に、躯は熱を孕んで滾るのに、オレの心は徐々に醒めていった。 美月の想いは、オレを自由に羽ばたかせてくれる片翼だと思っていたのに。 オレにそんな想いは重すぎて、逆にオレの手足を縛り付ける。 誰よりも愛しい美月と居るのに、まるで息の仕方を忘れたみたいに、息苦しくて堪らなかった。 それはまるで、ガキの頃に海で溺れた感覚に似ていて、このままじゃいつかきっと窒息してしまいそうで。 スゲェ、怖くなっちまったんだ。 美月の愛情の海に溺れたくないオレは、 一生一度の恋に別れを告げた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |