海に還った人魚
佐伯Side
この頃西野の様子が変だ。
西野、と言うより西野と針谷って言った方が正しいような気がする。
よく二人で居るのを目にするけど、何て言うか以前のような明るさが二人からは見受けられなかった。
一緒に居るのにどこかぎこちない、そんな感じ。
針谷の方は分からないが、西野は目に見えて元気を無くしている。だから俺は、西野が一人になるのを見届けてから声を掛けたんだ。
お前が心配だったから。
「……なぁ、大丈夫か?お前、最近変だぞ?」
「……そうかな?」
俺の質問に西野は一瞬だけ驚いたような顔をしたけど、すぐにいつもの穏やかな表情をして俺を見上げた。
まったく、相変わらず嘘の付けない奴。
俺は西野の前の空いた席に座ると、真っ直ぐに西野の瞳を見詰めて言った。俺には、何でも包み隠さず話して欲しかったから。
「針谷と何かあったのか?」
俺の言葉に西野の細い肩がピクリと反応を示した。やはり、自分の考えは正しかったんだと。そんな俺を、西野は不思議そうな顔をして見ている。
「……凄い。どうして分かったの?」
「当たり前だろ!俺は、お前が……」
俺は思わず座ってた椅子を蹴倒すように立ち上がってしまった。そして喉元まで出かかった言葉を、俺は必死の思いで飲み下す。
俺の西野への想いは、誰にも知られちゃいけない。知れたら、きっと西野を困らせてしまうから。
「私が……何?」
「……何でも無い。でも、何か困った事があるんなら、俺、相談に乗るから」
俺は西野の柔らかな髪に手を伸ばし、クシャクシャと掻き混ぜた。普段の西野なら、こんな事されたら絶対怒る筈なのに。
西野は何故か気持ち良さそうに笑っている。
「コウと別れたの」
「……嘘……だろ?」
「本当。コウ……ハリーは今、西本さんと付き合ってる」
今、西野は何て言ったんだ?
西野から発せられた言葉が、俄かに信じられなかった。
「……そんな、だってお前等……」
「私がお願いしたの。卒業式まで私達が別れた事、内緒にして欲しいって」
そんな事したって何の意味も無い。それは反って自分を傷付けるだけなのに。本当はそう言いたかったけど止めた。
きっと西野自身、その事に気付いている筈だから。
「……西野はそれで良いのか?」
「卒業式まで、あと少しだから」
西野は笑ってそう言うと、俺から視線を外し窓の外を眺めた。だけど西野の瞳は外の景色なんか映していない。
きっとその眼差しの先に居るのは、針谷ただ一人。
その瞳に
俺が映る事はない。
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