海に還った人魚
美月Side
「……なぁ、大丈夫か?お前、最近変だぞ?」
誰も居ない教室で自分の席に座ったまま、一向に帰る気配を見せない私に、佐伯くんが心配そうに声を掛けて来た。
「……そうかな?」
「針谷と何かあったのか?」
佐伯くんの言葉に私の肩がピクリと反応する。私は佐伯くんの観察力の鋭さに改めて感嘆した。
「……凄い。どうして分かったの?」
「当たり前だろ!俺は、お前が……」
私の前の席に座っていた佐伯くんは突然立ち上がると、微かに頬を赤く染めて私を見詰めた。
「私が……何?」
「……何でも無い。でも、何か困った事があるんなら、俺、相談に乗るから」
佐伯くんは少しふて腐れたように椅子に座り直すと、私の頭に手を置いて髪をクシャクシャッて撫でてくれた。久し振りに感じる人肌が、妙に心地良い。
だから、その言葉がすんなり出たんだと思う。
「コウと別れたの」
「……嘘……だろ?」
「本当。コウ……ハリーは今、西本さんと付き合ってる」
「……そんな、だってお前等……」
佐伯くんが驚くのも無理はない。だって私達は今でも一緒にお昼ご飯を食べるし、下校もするから。
「私がお願いしたの。卒業式まで私達が別れた事、内緒にして欲しいって」
「……西野はそれで良いのか?」
「卒業式まで、あと少しだから」
私は佐伯くんに微笑んでみせると、そっと視線を窓の外に移した。
今頃二人は、コウの部屋で愛し合っているのだろうか。
私が、何度も抱かれたベッドの上で。
そう考えただけで胸が苦しい。嫉妬の炎に身の内総て、焼き爛れてしまいそうになる。
きっと佐伯くんは感じ取ったかも知れない。
私の邪まな感情に。
だけど佐伯くんなら、きっと分かってくれる。
いつだって佐伯くんだけは、私の味方だから……
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