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菫と白雪
同室者はビビり3

寮の部屋は基本的に2人部屋で個室がそれぞれ1つずつとキッチン付きの共有部屋があてがわれている。

男に案内され俺が座ったのは共有部屋にあった3人掛け用のソファーだ。
一方、男は俺から距離にして3メートル離れたところで正座で床に座っていた。

これではどちらが元からの部屋の住人なんだかさっぱりわからない。

しかし、男が俺を怖いと言うならば、下手に刺激するのはよくないと思い黙っていた。

男はまず『笠原楓』と自分の名前を名乗った。

おどおどして気づかなかったが、よくよく見るとうるうるとした目はパッチリ大きく、艶のある唇はあひる口をしていて、董夜以外の男には興味のない俺から見てもなかなか愛らしい顔つきをしていると思う。

特別整っているわけではないが、愛嬌があって親しみやすいとでも言おうか、
ただしおどおどしているため、魅力は半減している。

俺がそんなことを考えているのも知らず男−−楓は語った。


「ぼぼ僕があの場所にいたのは、りょ寮の怖い管理人さんに編入生を迎えに行くように…その…頼まれたからなんだ。」

どうやら楓があの場所にいた理由についての予想は当たっていたらしい。

だけど、怖い管理人さん??

俺は指紋の登録をしてくれた管理人さんを思い出していた。
楓が俺にこれだけビビっているならば、熊みたいにでかい管理人さんは楓にとって恐怖対象なのは納得できる。

しかし、管理人さんは怖くはない。
むしろこの学園の管理人さんにしては優しすぎる人だった。

「さ最初はちゃんと待っていたんだ。で、でも待っている間にこの荒れた学園にわざわざ編入してくるやつなんだから、…そその…ききっと怖いやつが編入してきたにちがいないって…。」

思ったのか。
ここまでくれば妄想の域だな。

まぁ百歩譲ってそこまでは納得しよう。
だが、

「なぜ木の上??」

「そそれは……こ怖かったからそこから隠れて様子を見ようと思って…そしたら降りられなくなってしまって…。」

いや、全く隠れられていなかったけれど。
こういうのは『隠れている』という本人の気持ちの問題だろうか…。

その後も楓はポツポツ語った。

やってきたのは、茶色の髪をした俺だった。

派手な頭=怖いやつと考える楓は妄想に拍車がかかり、勝手に俺を怖いやつだと決め付けたらしい。

楓が木の上で震えていたのは、木から降りられなくなっただけではなく、俺を怖がっていたのもあったようだ。

その俺が声をかけたせいで恐怖を感じて足を滑らせ地上へ真っさかさま。

目を覚ましたら、目の前に恐怖の対象の俺がいたのだから、楓は逃げ出したというわけだ。

ようはこいつが極度のビビりだったってことだな。

地味にへこんだ俺の時間を返せ。

「…つか、これ地毛なんだけど…」
「……地毛…?」

ひとふさつまんで見せた髪は光にあたると金色に輝く。

もともと俺の髪は色素が薄い金髪に近い茶色なのだ。
董夜にきれいだと褒められるこの髪は楓にとっては恐怖対象でしかないらしい。

「そもそも染めているイコール怖いやつとか、いつの時代の不良の話だよ。」

校則で髪染め禁止の時代はとうに終わっている。
政府に権力がなくなった時点で学校の校則も機能しなくなったも同然だった。

制服こそあるが、みな格好や髪型は自由なのだ。

ちなみに俺や董夜が染めていないのは互いの髪色が気に入っているからにすぎない。


「だだだだって…」
「俺、髪染めてないけど、喧嘩はするし」
「けっ喧嘩するの?」

びくりと肩を揺らして再びおどおどする楓。

「別に今時喧嘩も珍しいものじゃないだろ??つか、お前チームに入ってないの?」

楓は目をうるうる潤ませて頷いた。

「ぼ僕、ビビりだし…喧嘩できないから。逃げるのは得意なんだけど…」

ビビりなのは見ていてよくわかる。
しかし、喧嘩できないから、チームに入らないのは少し違う気がする。
俺のチームでは、喧嘩できなくても他の特技で活躍するやつはたくさんいる。

「チームに入りたいのか?」
「…わからない。チームって怖いところって聞くし…」
「まぁチームによってはチームの規則が厳しいところもあるしな。」

規則はチームによってそれぞれ違う。

他のチームはよく知らないけれど、ホワイトヴァイオレットは緩い方だろう。

俺と董夜が決めたのは『自分の行動に責任を持て』と『住民に迷惑かけんな』と『チームに迷惑かけるな』だけだ。

『自分の行動に責任を持て』には裏切りも含まれている。

その他の規則は幹部連中が決めてくれたようで『十戒』なるものがあるそうだ。

俺は内容をよく知らないけれど、董夜が黙認しているところをみるとそんな酷な規則ではないのだろう。

「鳥山地区のチームはよくしらないけど、チームに入ることはそう悪いことじゃない。」
「…そそうなの?」
「あぁ。」

だからチームに入れとは、言わないけどな。

これは楓の問題なのだから。



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あきゅろす。
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