誇りを胸に掲げて
新しい世界との出会い
『・・・っ』
よく目覚めると、そこは見慣れない天井だった。
ここどこよ。
けだるさを感じながらも上半身を起こすと、随分と低い視線。そのことに酷く動揺する。え、なぜ。
というか、私は死んだはずじゃ。
現状が理解できず、頭の中はぐしゃぐしゃだ。
「あ、起きたー?」
不意にかかった女性の声に肩を揺らす。え、人いたの。これ、不法侵入じゃね?
どうしたらいいかわからなくなっている私に女の人はパタパタと近づいてくる。そして額に手をあて、熱を測ってきた。その手がひんやりと感じる。
「・・・うん。大丈夫みたいね。熱も少し下がったようだし。」
そういって額から手を離し、私に話しかけた。
まだ混乱している私はその女の人に話しかけようとしたが声は出ず、咳が出た。
「あら、やっぱり咳は出ちゃったか。今、お水持って来るわね。」
女の人は再び部屋を出ていった。
どうやら私は今、風邪をひいているらしい。
仕方なく当たりを見渡す。
木造の壁や天井。
電球ではなくランプ。
電化製品はひとつも見当たらず、とても文明が発達した日本だとは思えない。
すぐ横の窓の外を見ると、暗かった。
ふいに気づく。
『・・・え。』
まどに映っているのは、子供の顔。
思わず膝立ちし、窓を凝視する。
自分の顔を触ると、窓に映る子供も触る。
自分の手を見ると明らか小さくなっていて。
必死に情報整理をしている時、女の人が水を持ってきた。
「あら、まだ起き上がってちゃダメよ。ほら、水。飲んでもう一回寝なさい。あ、それともスープ飲む?」
そういえばお腹が空いている。しかし、声を出したら咳が出るので、首を縦に振った。
「そう。なら温めて持ってくるからちょっと待ってなさい。」
女の人が出ていったことを確認すると、溜息を漏らす。一体どういうことだ。
風邪ひいている人間にお粥ではなく、スープを持ってくると言っていたことから、早合点かも知れないが日本との文化の違いが伺える。
靴も家の中でも履いていることから、どちらかというと文化は西洋に近いのだろう。
なんて分析していたとき、スープを手に女の人が戻ってきた
「はい。お母さん特製ポカポカスープよ!」
手渡されたスープはジャガ芋や人参、キャベツなどが入っている。木製の皿から伝わる熱が程よく温かかった。
とりあえずスープを食べる。薄塩味のスープは素朴で温かかい。おいしい。
というか、今「お母さん」って。よく女の人の顔を見ると私に少し似ていた。
「まったく、折角の5歳の誕生日に風邪をひくなんて・・・ついてないわねぇ。」
5歳!?
いや、もう20代何だけど!?
・・・まさか。これは。
「お、起きてるな。」
男の人が入ってくる。手には何か持っている。
「プレゼントだぞ!誕生日おめでとう!!」
そういって手渡されたのはペンダントで。
表にかわいい細工の施されたロケットの中は空っぽだった。
「写真は明日撮ろうな!」「あなた、風邪が治ってからよ!」
ということは、あの男の人は「お父さん」ということか!?
知らない家族。
小さくなった体。
見たことのない場所。
―――・・・どうやら私は、トリップしてしまったようで。
こんにちは、新しい私。
誰か嘘だと言ってください。
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