Attack on titan
秘密。
・・・最近アルミンが変だ。
食事の後、いつもの三人で戻らず、一人で席を立つのだ。
「エレン、ミカサ、今日もちょっと予習したいから先に戻らせてもらうよ。」
「ん?おう、わかった。」「・・・了解。」
エレンは全く疑わず、ミカサはエレンと二人でいられるから構わないのだろう。
アルミンの予習が始まってから一週間。
どこかよそよそしい態度に疑問を持つ。
以前、食堂の外でアルミンがサシャに捕まり、尋問されていた。
「アルミンからパンの匂いがします!パン、持ってるんですか!?」
クンクンとアルミンの匂いを嗅ぎ、キラキラした目で見つめている。
そんなこと、普段ならありえないんだけど。
「えっ!?あ、えっと、多分それは今日服にパンくずをこぼしちゃったからじゃないかな・・・。」
この回答も始めはサシャの勢いにたじろいでいたからだと思っていたが、ここ最近のことを考えると、もしかしたら図星だったのかもしれない。
『ねぇ、サシャ。』
「ふぁい、なんれほう。」『・・・飲み込んでからでいいよ。』
口にものを入れながら喋るのはよくない。サシャも急いで口の中のものを飲み込んでいた。
「ふぅー。で、なんですか?」
『前さ、アルミンからパンの匂いがするって言ってたけど、本当にそうだったの?』
サシャは少し考え、ああっ!!と思い出したのか、手を叩いた。
「あの時のことですね。うーん。確かにしたんですが、思い出せばどっちかっていうと、残り香的な感じだったかもしれませんね。パンくずを零したにしては匂いが強く残り過ぎてる気もしたんですけど・・・。」
・・・。
お前は犬かっ!!!
パンの残り香ってなんだ。強く残り過ぎてるって・・・。
犬もビックリの嗅覚だわ!!
でも、あの時アルミンは食堂の外からやってきた。
ということは、もしかしたら実際に持ってたのかもしれない。あの前までは。
でもいったいなぜ・・・?
「大丈夫かい?ジャン。」「ああ・・・。」
そんなマルコとジャンの会話を耳にして、そちらに向く。
「おい、どうしたんだよ?」
コニーの質問に少し黙ってからジャンは答える。
「・・・最近、犬の声が夜聞こえてな・・・。寝れねぇんだよ。」
「はあ?犬の声?そんなの聞こえたっけ?」
「まあ、お前はもう寝てるしな・・・。最初は気にしなかったんだが、ちょっと気になってな・・・。」
参ったようにつぶやくジャンにエレンが気づいたように手を叩き、ニヤニヤと笑う。
「ジャン、まさかお前あの話・・・信じてんのか?」
ジャンは図星をつかれたようにうっと詰まる。
「べ、別に信じてねぇよ!」
しかし、周りが放っておかない。
「なんだよ、あの話って!」
「気になります!!」
主にコニーとサシャが。
「それがなぁ・・・。」
「やめろっ!!」
話し出そうとするエレンを必死に止めようとするジャン。
「信じてねぇんなら別に話してもいいよなぁ?」
ニヤニヤしながら言うエレンに青筋をたてながらも、反論できないのか、
「・・・っ勝手にしろ!!」
ついに折れた。
「それで、座学の教官に聞いた話しなんだけどよ。
何でも昔、ここの訓練兵が犬を惨殺したらしい。親子だった犬を別々の場所で殺したんだ。
そのせいか、夜な夜な子犬の母犬を探すような声が止まないんだとよ。
ちなみに、その犬を殺した訓練兵は次の日の訓練で立体起動装置が壊れていて・・・頭、全身を打って死んじまったそうだ。しかもありえないような姿で。
―――その死に方は、犬の死に方と同じだったらしい。」
食堂全体がしんっと静まり返る。
「お、おいエレン。お、おどかすなよな。」
「そ、そうですよ。で、デタラメに決まってます!」
コニーとサシャが声を震わせながらいうが、強がりにしか聞こえない。
「しかたねーだろ?俺だって聞いたのを話しただけなんだから。」
その言葉にミカサも頷く。
「エレンの話したのと同じ話をわたしも聞いた。」
「じ、じゃあ、ジャンが聞いた犬の声って・・・。」
「惨殺された・・・子犬!?」
食堂がざわめきだす。
原因のエレンは平気でご飯を食べている。
その後、結局食事の時間が終わりに近付いたころ、教官が食堂に来たことで騒動は治まった。
―――――――――
―――――
『ジャン。』
「・・・アルトか。なんだ?」
食事後、私はさっきの話が気になり、ジャンを引き留めた。
『さっきの話についてなんだけど。』
「さっきの・・・?ああ、犬の声な・・・。」
さっきの騒動を思い出してか、疲れきった顔をしている。
『それそれ。それって、何時からなの?』
「は?あー、一週間くらい、だな。てか何でそんなこと聞くんだよ。」
『えっと・・・ま、まぁいいじゃない。単なる好奇心だよ。じゃあ、ありがとう!またね!』
ジャンは納得してないようだったが、これ以上聞かれても困るので逃げた。
犬の声。
パンの匂い。
アルミンの若干不審な行動。
そして、共通する一週間という期間。
これで断定するには不十分過ぎるけど。
アルミンの性格を考えたら十分に考えられることだった。
――――――――
――――
「じゃあ、今日も予習してくるよ。」
アルミンの言葉にエレンとミカサが短く返事をする。
――今だ。
『ちょっと、教官に用事があったんだ。』
「そーなの?大丈夫?」
クリスタが私の言葉に心配してくれる。
まじ天使。
『大丈夫だよ。ちょっと座学について聞くことがあるだけだよ。心配しないで。』
教官っていったら普通は関わりたくないもの。心配してくれるのもわかる。
・・・まあ、嘘、なんだけど。
『ちょっと先に戻るよ。』「ああ。そうしな。」
日頃の行いってやつかな。
足早に食堂を出た。
―――――――――
――――――
「ほら、ご飯だぞ。」
餌として、パンを与えているらしい。どこから持ってきたのか、平たい皿に水が入っている。
犬は嬉しそうに食べている。
アルミンは優しく笑っていた。
『―――アルミン。』
そう呼びかけると、アルミンは肩をびくっと揺らし、こちらを振り向く。
「アルト・・・!?なんでここに・・・!!」
ここは男子寮の裏側。
アルミンは私がここにいるのが信じられないらしい。
私は静かにアルミンの隣にしゃがむ。
『やっぱりアルミンが犬を世話してたんだね。』
目の前の犬は私がきても逃げない。人懐っこいようだ。
「やっぱりって・・・?」
アルミンが私を伺うように聞いてくる。
『ここ一週間、ジャンが夜中に犬の声が聞こえて寝れなかったんだってさ。
しかも、ここ一週間でアルミンいきなり予習始めたし、どこかよそよそしい態度とってるし。』
この前にいたってはサシャに捕まって尋問されてるしね。
苦笑いしながら付け加えた言葉に、アルミンも思い出したのか苦笑した。
『食堂の外であったのに、パンの匂いが強く残っていた・・・パンをどこかに持ち出したとしか考えられない。
アルミン、どうせパンこの子にあげてあんまりご飯食べてないんでしょ?』
「っ!!」
自分の憶測に過ぎなかったが、どうやらあたったようだ。
ただでさえ少ない食事。
それを犬に与えてしまうお人よし。
まったく・・・。
『どういう経緯であれ、犬に餌を与えたい気持ちもわかるけど、野良の生き物に餌を与えることは決していいことではないよ。
人間の食べ物の味を知ってしまうと、盗みや人を襲ってしまうなんてことも考えられるからね。
それに食事もちゃんと取らないと。
―――・・・私たちは何時いなくなるかわからない。
正直、飼えもしないのにこの子に人の温かさを教えるのは酷だと思う。』
アルミンは黙り込んでしまう。
アルミンは聡明だ。自分の行動が良いことではないと理性では解ってるのだろう。
『―――・・・でも、私たちにとっては、生きる希望になるかもしれない。
この子を、一人にしないために。
なにより、再び幸せな日常を取り戻すために。』
アルミンが俯いていた顔をあげ、こちらを見る。
私はアルミンの方には向かず、犬の頭を撫でる。すると私の手を舐めてくれた。
こんな穏やかな時間を取り戻したい。
『アルミン一人で世話するのは大変でしょ。
―――とりあえずしばらくは私も手伝うよ。』
「―――うん。ありがとう。」
アルミンは顔を再び犬の方に向け、小さくつぶやいた。
教官に知られたら、この犬は処分されてしまうだろう。
『―――・・・秘密ね。』
「―――うん、秘密だ。」
二人だけの、
『次のこの子連れて町に降りようか。』
「そうだね。こいつの飼い主を探してやらないと。」
―――しばらくはこんな日常も悪くない。
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