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膨らむココロ





休憩時間になると、*はいつもお菓子を作る。使用人達にもあげられるように少し多目に。ただ、あまりお菓子を作る経験がないのでバリエーションはあまりない。

私もセバスチャンさんみたいに美味しいもの沢山作ってみたいな。頑張って作ったデザートなんてクリスマスに作ったブッシュドノエルくらいだし。いつもそんな事を思いながら、パンケーキをひっくり返す。

セバスチャンさんに教えてもらうのも考えたけど、朝から晩まで忙しそうだし(殆どみんなの失敗の後処理に追われているから)

出来上がったパンケーキに蜂蜜をたっぷりかけて、横にホイップを添える。シンプルだけど、美味しそうには出来た。

さて、三人とタナカさんは…と振り返ると既に待ちきれない様子のみんながナイフとフォークを持って、出来た?出来た?と目で訴えていた。

「はい、どうぞ」

と分けたお皿を渡せば嬉しそうにぱくぱく食べ始める。

「*のパンケーキはとろける美味しさですだよ〜」

うんうんとみんな頷いてくれて、ほっとする。自分もひとくち切って口に運ぼうとするが、フォークに別の力がかかって驚く。

「せ、セバスチャンさん…!」

毎回音もなく現れるセバスチャンさんに、最近は慣れさえ感じてきている自分が恐ろしい。慣れって怖い…!

「美味しいですね」

横でにこにこ微笑みながら、私の分を食べ始める。私の分が…でも美味しそうに食べてくれるので、まぁいいかなという気になる。

そうこうしている内にみんなは先に食べ終わり、ご馳走さまでした〜美味しかった〜とそれぞれお礼を言った後、持ち場に戻っていく。残されたのは私とセバスチャンさん。うわ、2人っきりはまだ慣れないのに。

見るところがなくて、視線はセバスチャンさんに。改めて見ても本当に綺麗。全体的にすらっとしてるし、一見細いけど意外に力は強くて、身体も締まっていて…

わ、私今何を考えて…!「*」

「!は、はい?」

突然声をかけられ、語尾が裏返ってしまった。セバスチャンさんは半分残ったパンケーキをフォークに刺し、此方に差し出してきた。更に

「あーん」

と甘い声で囁かれ、口は自然に開いてしまう。パンケーキがすいっと入り、蜂蜜の甘さにホイップが混ざりあってふわっと口の中でとろけた。差し出される度に抵抗が出来ずにパンケーキがなくなるまでそれは続いた。

最後のひとくちが終わると

「はい、おしまいです」

何だか名残惜しいと思う私がいて、どうしたんだろうと自分の気持ちに疑問を感じる。

可愛かったですよ、雛鳥みたいで。そう言って唇を舐められた。

甘いですね…貴女みたいだ。

どうしたの私、いつもだったら効かなくても何かしら反抗の言葉のひとつも出てくるのに今日は何も考えられない。

「どうしたんですか?今日はどうも素直ですね」

「セバスチャン、さん」

間近にセバスチャンさんの顔が来ても、やっぱり抵抗出来なくて、そのまま降りてくる唇を受け入れる。

まるで求めているみたいで恥ずかしい。何だか前より好きな気持ちが大きくなった気がする。もう少しこうしていたいと思ってしまう。

離れる唇が淋しくて、口は勝手に言葉を紡ぐ。

「もう少し」

セバスチャンさんはその言葉に珍しく目を見開いて、しかしすぐに深い笑みに変わりもう一度…



「あっ、見えないですだよ〜バルドもう少し屈むだよ」

「おぅ…それにしてもさっきのセバスチャンの顔と言ったら」

「食べたらとっとと出てけって感じだったね〜」

「*も随分積極的になったもんだ」

「セバスチャンさんの瞳と声にかかれば*だってイチコロですだよ!」

「しかしここからじゃセバスチャンの後ろ姿しか見えねぇなぁ」

「ほっほっ」

扉の前に4人の野次馬。悪魔の雷が落ちるまであと15分。



(可愛い貴女の姿を見ることが出来るのは私だけ)






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