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確かなことはたったひとつ、君が好き君が、好き




「シーエールー!」

彼女の突然の訪問は毎回の事で、今日もドアを勢いよく開けてぴょーんと効果音がつきそうなほど飛び上がり坊ちゃんに正面からダイブする。坊ちゃんも避ける事は出来るけれどリジーが怪我をしてしまう為あえてタックルを受けているのでしょう。

私もあのくらい積極的になれたら…

ちらりと後ろに立ち、笑顔を称えながらその様子を眺めているセバスチャンさんを見て、やっぱり積極的な方が嬉しいんだろうなぁとぼんやり思う。

頼まれた本を机に置き、尚も抱きつかれて苦しそうにしている坊ちゃんを微笑ましく思いながら部屋を後にした。



掃除を終えて長い廊下を窓から見える空を見ながらのんびり歩いているとリジーがしょんぼりしながら前方から近付いてくる。

「リジー、どうかしたの?何かあった?」

「シエルが仕事の邪魔だって部屋追い出されちゃって」

私シエルに嫌われてるのかなぁ。今にも泣きそうな顔で呟くリジーの手を握りそんなはずがない事をぶんぶんと首を振りながら精一杯伝える。

「寧ろ積極的な方が気持ちが相手に直接伝わってとてもいいと思うの」

私は心の中で思うばかりで伝えられたことなんて数えるほどくらいしかない。言う直前で引っ込む言葉の数々。リジーにその積極的になれる秘訣を教えてもらいたい位。

「*はセバスチャンが好きなんでしょう?」

「え、う、うん」

「*が羨ましいなぁ」

「どうして?」

首を傾げてリジーの表情を伺えばまだ暗さが残っている。こんなに凹んでいるリジーを見るのは初めてで本当にシエルの事が好きなんだとわかる。。

「だってセバスチャンが*を見る目は本当に優しくて愛されてるんだってわかるもの」

「そ、そう、かな?」

セバスチャンさんがそんな目で見ていたなんて気がつかなかった。いつも笑っているけどどこかからかいを含んだ目で此方を見て行動も同じように人で遊ぶ。

「でもシエルは特にそういった態度は全くないし、鬱陶しいようにしか見えないし不安なの」

私のこと嫌いなんだ。そう呟いてすぐに耐えていた涙が溢れてくる。ハンカチを取り出し零れ出したそれを拭き優しく諭す様に言葉を選びながら否定する。

「坊ちゃんはそういった感情を表に出すことが苦手なんだと思う。私もそうだし、いつもほんとは感謝してるんだけど言葉に表そうと口を開けようとすると恥ずかしくてつい思ってる事とは裏腹な事言っちゃうんだと思うよ」

「そうなの?」

「そうだよ、だって坊ちゃんいつもリジーが来ると照れてるんだから」

「シエルったらポーカーフェイスだしいっつも眉間に皺寄せてるからそんなの全然分かんなかったわ」

今度はリジーが驚いている。お互い大事な部分には疎いところが似ているらしい。

「リジーはいつも通り坊ちゃんに接しているだけで坊ちゃんは救われてるはずだから、そのままでいてあげてほしいな」

だから泣かないで?と告げるとみるみる元気を取り戻していくリジーは残りの涙をごしごしと拭いにこりと微笑む。

「わかった!じゃあシエルの所に行って来るね!有難う*!」

手を振り走ってシエルの元へ戻っていくリジーに同じように振り返すと「お優しいですねぇ」と後ろから声がかかる。嫌な所を聞かれてしまったと思い振り返らずにそのまま真っ直ぐ歩く。足音が聞こえるので着いてきているのがわかるけれど顔を合わせるのはとてもじゃないので足を止めず、歩くスピードは上がり、自然行き先は自分の部屋へ。


部屋が近付くと後ろから足音が聞こえなくなり、内心ほっとしながらもこの赤くなる頬を落ち着かせるために一旦部屋には戻ろうと歩を進める。やっと長い廊下を歩き終えドアを開けると部屋の中にはセバスチャンさんの姿。

「…」

ぱたん。

思わず扉を閉め、開かないように抑えながら頭を整理しようと目を瞑り今のは見間違いかもしれないと言い聞かせていると抑える力は無に等しいほどの強い力で扉は中へ引かれた。その力に体は扉ごと引っ張られて部屋に倒れるように入るとそのまま黒い服に抱き付く形になり、焦りながらも体制を持ち直す。

「*、現実は扉を閉めてもその目がしっかり捉えていたでしょう?」

「そうなんですけど…信じ難いといいますか、見間違いであって欲しいという願望が…」

「おや、そんなに私は*に嫌われていましたか」

「…!そういう、わけじゃないと」

わかっている癖に、さっきの事を聞いていてわざとしおらしくするところがセバスチャンさんの嫌な性格が出ている。言葉に詰まると喉の奥でくつりと笑いながら髪に触れる。

「あなたはそのままで十分可愛らしいですよ」

「でも素直な方がセバスチャンさんだっていいのでしょう?」

「素直になって下されば勿論可愛さは増すでしょうけれどそれでは貴女らしくはないですし、それに貴女がいつも私に何か言いたそうにしているのはわかってますから」

「…」

「まぁたまには素直な貴女も見てみたい気もしますけどね」

「…」

やっぱり思う気持ちは声にならずもどかしさを感じて、何とか表現しようと強く握り締めていた燕尾服から手を離し代わりに背中へそろそろと腕を回す。その行動に少し驚いたのか一瞬表情を崩したがすぐに元に戻りふっと笑みを漏らす。見上げるように見つめ返すと何となく優しさが増したように見えて顔が火照る。

「*、あまり見つめないで下さい、余裕がなくなりますから」

「あ、ごめんなさ…」

素直になろうと頑張るつもりが笑顔に引き込まれていつの間にか見てるだけになってしまっている事に言われて初めて気が付き戸惑いながら視線を下に落とす。

「ですが、嬉しいですよ…私の為に素直になろうと努力する貴女の気持ち」

私だけに見せてくださいね、と耳元で囁き顎を掬いキスをひとつ降らせた。


確かなことはたったひとつ、君が好き君が、好き


(その顔はくれぐれも男性陣には見せないように)

(どんな顔ですか…)


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